第22話 再会

僕とグリンデルさんは落ち着きを取り戻すために、少しの水と食料を口にしていた時に後方の簡易拠点から火の手を見た兵士やリーディアが駆け付けた。


事情を話していると、前線からも通達が届き砦を制圧したとのことだった。


後方部隊の生き残りを、救護にきた予備兵士達に任せ。グリンデルさんはヤード砦にいる、第四皇子たちへと報告へと向かった


僕は生き残りが万が一いる事を考えて、いまだこの襲われた後方部隊で待機となっている


「マジール様・・・うっ・・・うっ・・・」


僕の目の前では、リーディアの一人の女性がマジールさんの亡骸の横でうずくまるように泣いていた。


声を掛けるべきかどうかも分からず、僕は何をすればいいのかも誰にも指示されておらず途方に暮れていた。


「おーい、生きてるやつはいないかー!」


「返事しろー!」


簡易拠点に残っていた兵士とリーディアは10人程度。その人達が救護テント周りを調べ尽くし・・・というよりかは歩き回り、声をかけて返事がどこかから聞こえてくるのを待っているという杜撰な捜索


そんな生存者の捜索はすぐに終わりを見せる。結果生き残りは僕とグリンデルさん以外はいないという結果だった。


その後は兵士達は味方の死体はぎを行う。元からここにいるのは前線で戦っていて負傷兵だ。騎士や魔道兵は少なく、マジールさんやハンスさん、他数人の騎士だけを見つけ探り終わると僕らもヤード砦へと向かった。


「あの、これどちらかがマジール様の物だと思うのですが」


「・・・それをどうするおつもりですか」


僕がマジールさんの横で泣き崩れていた、リーディアの人に声を掛けると、かすれた声ではあったがきつめの口調で問われる。敵対心をむき出しにされている事は分かった。


「どうすべきか分からずに今聞いてます・・・こっちはハンスさんのです。中身も確認するのを躊躇い・・・」


「でしたら・・・私が頂いてもよろしいでしょうか」


「えっ・・・う~ん・・・正直、あなたがリーディアだとは分かるのですが・・・マジール様は貴族のお出でと聞いていますので・・・家に返す方がいいかと・・・」


親しかったようではあるが、この人の事も知らない為に、簡単に渡すことは出来なかった。


僕の言葉を聞いて、僕を疑うような目つきをやめて一礼をすると


「・・・失礼いたしました。私は、セラ・ライズ・・・マジールは私の姉です」


「姉・・・えっ・・・」


そう言われ、女性をよくみると・・・確かにきつい目元が似ているように見える


「・・・それで、私がマジールの妹という証明は・・・今は出来ませんが・・・そのカバンは」


少し驚いたために、呆けてしまったが。そうだカバンだと話に意識を戻す


「あっ・・・どうぞ。確かにマジール様の面影をセラ様にも・・・感じますので、えっと、どっちがマジール様のですか?お渡ししますよ」


「そちらの・・・黒い方です。あの・・・ありがとうございます」


「いえ・・・こちらこそ事情を知らず、お辛い中・・・心中お察しします」


姉を失くして、あんなに泣いていたようだ。無神経にも聞いてしまったことに気まずい雰囲気を感じ、カバンを渡すと僕はセラさんから離れた。


救護テントがある後方部隊の場所から10分もあるけば、ヤード砦が見えてくる。ヤード砦の左右にある塔は見事にボロボロに崩れており、アルスさん達の攻撃が成功したことが分かった。


ヤード砦の周りは兵士がかなり倒れている。今回の制圧はかなり手痛いものになっているのか、それともこのぐらいの被害は当たり前なのか、実質2度目の戦場となった僕には戦の被害がどれほどのものだといい方なのか分からなかった。


倒れている兵士を物色している人はすでに少なく、死体集めをしている最中だった。


!?


ぼーっと眺めながら見ていたその光景に、僕は息を飲んだ


死体を集めている人の中にスナイプさんを見つけたのだ!


僕は気がつけば走っていた。想像以上に彼が生きているという事が嬉しかったのだ。


「スナイプさん!」


「うぉ!?ノエルか!?」


死体を転がし終えている所に、僕は声を掛けるとスナイプさんは驚いた表情をした


「はい!お久しぶりです!」


「そうだな、なんか見違えたなノエル」


「えっそうですか?服装が違うからですかね?」


スナイプさんは僕をまじまじと、頭のてっぺんから上までみてふふっ笑った


「それもあるが・・・以外にも魔道兵が似合ってるな」


「笑ってるじゃないですか・・・」


「そんなことねーよ。でもよ、元気そうにやっててよかったぜ」


「はい、スナイプさんも相変わらずで安心しました」


スナイプさんの服装は以前と変わってはいない。それもそうだ、久しぶりといっても1週間かそこらだ。見かけていないというだけで同じ軍にはいたのだから。


軽い近況話をする。スナイプさんは何も変わっていないということだ


「それにしても、今回もあまり見入りがなかったぜこっちは」


「あぁ・・・スナイプさんは新しい部隊に編制されているんですよね」


「あぁ、今の隊長は慎重だからな。まぁそのおかげで矢の雨の中突っ込むとか無謀な事をせずに済んだんだけどな。ノエルはどうした?なんでこんな所いるんだよ」


スナイプさんは手柄を立てたい人の為、物足りそうに語る。そして、僕が遅れてきた様子が気になったみたいだ。


「僕のグリモワールは支援担当なので、後方部隊の救護テントにいたんですよ」


「はぁ?それほんとか?騎兵に襲われたって聞いたぜ?」


「・・・ですよ。運よく生き延びました」


「・・・そうか、本当よかったぜ」


「はい、お互いまだ生きてます。アルスさんも恐らく中にいるかと思いますよ、あそこの塔を破壊する任務だったので」


「あぁ・・・中でチラっとみつけたよ」


あっ・・・そういえば2人はまだ・・・。話を振ったがアルスさんの話を出してしまい、表情が変わるスナイプさんをみて、しまったと思った。


「あっ・・・えっと・・・」


「ククク、悪い。あの時は俺の気持ちが整理できてなくて、俺もやつに強くあたったんだよ。まぁ今もお前らの活躍を聞くと正直、悔しい気持ちはあるが・・・それは俺の問題だ」


僕のあからさまに目の泳ぎと、バタバタと動かす手をみてスナイプさんはそう言う。そして続けた。


「まぁまだ素直になれない部分があるからな、直接は顔を出さないが・・・ノエルは俺を見かけたら近況を教えてくれよ」


「はい!もちろんです!」


スナイプさんは変わっていなかった。僕の頼れる兄貴分のもう一人に変わりはないままだった。


「あっちでまってる白のローブのやつらと兵士、ノエルを待ってるんじゃねーか?」


「えっ?」


僕が後方部隊の列から飛び出して、スナイプさんの所に走ってきたが、振り返ってみると彼らは僕を待ってくれていたようだ。


「そうみたいですね・・・まだまだ喋りたいことは沢山あるのですが・・・」


「いいって、お襲われた救護部隊の生き残りなんだろ?報告が先だろ」


「ですね・・・あっちょっと待ってくださいね」


僕は背負い袋から、ドライフルーツやナッツ、干し肉を詰め込んでいた袋をスナイプさんに渡す


「これは?」


「携帯食料です。えっと・・・いらないかもしれませんが・・・僕は、えっと・・・ここにあるのでスナイプさんにあげたいなって・・・でももしいらなければ・・・」


アルスさんとのやりとりを思い出して、小袋を差し出す手を出そうか、出さまいかと喋りながらゴソゴソしていると


「いや貰う貰う。シャキシャキ喋る様になったかと思ったが、やっぱりノエルはノエルだな。ありがとよ」


僕から奪うように小袋を手にする。


施しと思われたらと思ったが、スナイプさんは笑った受け取ってくれた。


「では、また今度にでもゆっくりと!あっもし怪我とかしたら言ってくださいね。こっそりと回復するので」


「あぁ、それは助かるな。じゃあな、ほら痺れ切らして呼びにきたぞ」


「あっ・・・ではまた!」


僕はセラさんがいる列へと戻った。


痺れをきらして呼びにきたのはセラさんだった為に、戻りながら話かけられた


「知り合いですか?」


「え?はい、兵士時代の先輩です。よくしてくれた方で、生きていたのが嬉しくて」


「そうですか・・・えっと魔導士さんは優しいですね」


「あっえっと・・・ノエルです。すいませんお名前を聞いたのに、こちらは名乗らなくて」


マジールさんが姉という事に気がそれてしまい、名乗り忘れていたのだ。その後もきまずいために距離をあけたせいだった。


セラさんと少ない会話をしながら、僕らは砦の中へと入っていく。


砦の中は兵士達は歌い踊り、勝ちを祝っていた。手痛い勝利かと思ったが、そんな感じではなく普通に勝利を喜んでいる。


前回のように、支給が始まり兵士達は器を持ち食事をしていた。


あれ・・・どこいけばいいのかな?


兵士の時はこの騒ぎに混ざればよかったが、今は魔道兵。えっと・・・


僕がウロウロしそうになるが、隣にいるセラさんと他の2人のリーディアが僕を囲むようにしている。


「砦を進めば、王子やギレル様がいらっしゃると思います。その近くに魔道兵が固まっていると思いますので行きましょう」


セラさん達は砦制圧後のパターンを教えてくれ、そのまま砦の奥へと進んでいった。

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