第16話 ヤード砦制圧、簡易拠点

僕らが2日の行軍を終えた時には、簡易拠点にはすでに先についた兵士達が設営を終わらせていた。


だから兵士達と少しずれて出発したのかと、ここでも待遇の違いが見える


ヤード砦制圧は、明朝に行うことは既に兵士達に周知されている


魔道兵の攻城戦の仕事は主に1つだ。


兵士達の援護、それにつきる。物見やぐらから撃ってくる弓兵や魔道兵を倒すことが主とされている


物見やぐらごと破壊する魔道兵もいるとの事なのだ


攻城兵器は門を破る杭のような物しかない。この世界は魔導書があるせいか、カタパルトやバリスタといったものは無いに等しい


そんな物よりもグリモワールからでる魔法の方が使い勝手も維持も格段に楽なのだから、そっち方面で発展しなかったのは仕方ないことだと思う


その為、この世界では魔道兵は攻城兵器の役割も担っているという事になる


第6部隊のアルスさんも、今回魔道兵として初陣を飾るが隣にはナタリアさんも配置し、砦の城壁、東側のコーナー部分を制圧する任務を請け負っていた


「アルスいいか、一発撃てば自分の位置を知られ敵は魔道兵を先に殺すために集中砲火してくる。だから必ず1発で壊す必要がある」


「うすっ」


「弓兵の攻撃は騎士達が守ってくれるが、魔道兵の攻撃は防御魔法じゃないと防げない。だが今回は制圧優先するために防御魔法の準備を俺もハーパーもしない。攻撃を優先する」


「うす」


「砦がどのくらいの強度か分からないが、石づくりの建物を1発で壊せる魔法なんて誰も有していない。だから3人まとめて攻撃する必要がある」


「うす!」


「1発だ。詠唱を焦らず間違わずに唱え終わると、魔法名を唱える最後だけ合わせろ。詠唱を先に終えたら魔法名さえ唱えなければ魔法は行使されないからな」


「うっす!!」


アルスさんはロングレンジ隊長から、作戦の指示を聞き返事をする。緊張している様子だがやる気に溢れている返事だ


僕はその様子を隣で眺める


僕の神聖のグリモワールは回復や補助といった魔法を得意とする、グリモワール。魔道兵自体が後方支援なのだが、更にその後ろの支援となると


臆病者な僕には丁度良かったと、アルスさんの作戦を聞き隣で安堵していた・・・・が


「ノエル、お前は都度救護要請がくるはずだ。時には動けない騎士を戦地で回復するという事もあるだろう、その時は要請に答えるように」


「えっはっはい!」


ロングレンジ隊長の言葉にぞわっとした感覚から、一気に汗が全身から噴き出た


けが人が後ろに下がってきたらそれを回復と思っていたが・・・どうやら過酷な仕事もあると分かり、心臓が高鳴り始めた。先ほどの余裕な気持ちが一気に冷めてしまう


「あまり緊張するな。そうあることではない、あくまで騎士や魔道兵がそういう状況に陥った時だ」


僕の裏返った声の返事と、顔をこわばらせる様子で隊長は可能性の話だという


だが、1%でもそんな事があるのなら・・・僕はおびえずにはいられなかった


第6部隊の作戦会議も終わり、明日までの待機となった。小さなテントが僕とアルスさんに与えられている


大人3人はいるか入らないかぐらいだが、屋根があるだけで安心感はある


食事に久しぶりの麦がゆを貰うが、兵士時代のものより麦の量も多く塩味が濃い気がする


それを地べたで、アルスさんとナタリアさんと3人で囲い夕食を始めた


「明日には戦か・・・」


「何?緊張してるわけ?」


「そりゃそうだろ。失敗できねーと釘さされたからな」


「大丈夫よ、私がいう詠唱を一言一句復唱するだけなんだから」


「そうかもしれねーけどよ、お前は怖くないのかよ」


「私?怖いわよ、戦地に立つのなんて初めてよ」


気丈に振舞っている為、分からなかったがナタリアさんはこれが初めてだというのだ


「は?お前、経験あるような口ぶりじゃなかったか?魔法が使えた気になるとか何とかってよ」


「それは訓練の時のことよ。実際にリーディアが魔導士の隣で戦地に赴くなんて少ない事なんだから」


「おいおい、まじかよ・・・」


アルスさんは頭をがしがしとかく


「私が初めてだろうが関係あるわけ?」


「いや・・・ナタリアがどうとかじゃなく、リーディアが戦地に立つほうが珍しいって事にショックを受けてんだよ。俺のせいでナタリアまで危険に晒すと思うと・・・くそ!」


「へー私の心配しているわけね、でもアルスが詠唱間違わずに魔法を行使すればいいだけなんだから」


ナタリアさんはそういうと、悪い顔で笑った


「うわっ何余計にプレッシャーかけてきてんだ!」


「じゃあ今から覚えるのね。覚えさえすればいいのよ」


「それは・・・今からじゃ無理だろ。多分だが、明日戦地に立つと俺の頭は真っ白だ」


「もう頼りないわね~」


2人の会話を聞いていると、幾分か高鳴る心臓が落ち着くのが分かる


だけど、口はすぐに乾き心臓に穴があいたかのように息苦しさは常に感じている


「ノエル大丈夫か?お前ずっと死にそうな顔してよ、けが人の回復だろお前の仕事は」


「えぇ・・・そうですが・・・隊長の言葉がずっと気がかりで」


「稀って言ってただろ。俺も緊張しているが、お前を見てると逆に落ち着いてくるぜ・・・」


「そうよ、神聖使いはこの隊では数が少ないんだから、わざわざ戦地ど真ん中には派遣しないわ。私もアルスも戦になれば側にいてあげれないんだから、ノエルもしっかりしなさいよ」


そう・・・一番の不安はそれだった


僕はアルスさんと離れて戦に臨むのだ


それが何よりも心に穴をあけている、不安の種


「ノエル、お前ならやれるって。俺よりも賢く、グリモワールを使いこなせているからな!俺が怪我した時は頼むぞ」


アルスさんはそういい、僕の背中を叩いた


「はい・・・」


僕は通らない喉に、麦がゆをかきこんだ


魔道兵に見張り番はない。食事を終えるとアルスさんとナタリアさんは付け焼刃ではないが、詠唱の勉強を始めた


隣で4日間聞く限り、アルスさんの詠唱はもうほとんど完璧だった。接続詞のが、をなどをたまに間違えるぐらいで10回に8回は正しいものを唱えれていた。僕も祝福の光を読まずとも覚えることが出来た。僕は耳だけでなく見て覚えるためにアルスさんより覚えるのが早いのは仕方ないことだろう


隣で勉強するアルスさん達の横で、僕は神聖のグリモワールの”癒しの光”以外の魔法をグリモワールをめくって自主勉強をする


アルスさんから、読めもしないのにグリモワールをみて面白いのかと聞かれたことがあるが、古代のグリモワールの話をアルスさんにし、文字の研究をギレルさんやその助手のハイマーさんと喋った事を話すと読めるようになってくれと後押しされた為、堂々と研究の振りをして読むのだ


神聖のグリモワールに記載されている魔法は基本魔法を除き、12と数はそれほど多くはない。


”祝福の光”や”解毒の風”と見たことある魔法、”光の矢”という明らかに攻撃に使えそうな魔法に、”コールシャイン”という名前では分からない魔法から、”ホーリーノヴァ”という詠唱のページが10ページにも及ぶ魔法まで魔道兵の級が上がれば恐らく教わる魔法の全てを知った


その中でも一番短い詠唱は”光の矢”という魔法で、”祝福の光”が50文字ならこれは14文字


我が悪しき敵を聖なる矢で貫け”光の矢”


これだけの短い詠唱、基本魔法の次のページに記載されている為に、級が上がってどの順番で詠唱を教えて貰えるのか何か決まり事があるようだ


アルスさんの4元素のグリモワールも、最初のページは短い詠唱の物があったために、実践で使える物から教えていくのかなと推測した


グリモワールを持って迂闊に心の中で唱えると発動してしまうために、必ず最初の文字を間違えて読み始めるが・・・これが癖になってなければいいと少し不安に思う事だ


だが詠唱を読むのは、気分が落ち着く。娯楽の少ないこの世界では、こういう読み物があるだけで時間潰しにもなるのだ


本当は古代のグリモワールを読みたいが・・・今だに一人になる時間はとれていない。もしあれが自由に読める日がくると思うと心が弾む。今はそれが楽しみで生きているような物だった

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