第14話 古代のグリモワール
「ここじゃ」
天幕の入り口をあけながら、ギレルさんは中にいた白いケープの男性へ声を掛ける
「おーい、もどったぞ。こっちの新兵が古代のグリモワールの事を知りたいらしくての・・・どこかに資料はあったかの?」
「古代のですか?ふむ・・・こちらはどうでしょうか」
ギレルさんが声を掛けると同時に、山積みにされた本の中から一冊を引き抜くように取り出しながらギレルさんへと手渡す
・・・自己紹介のタイミング逃しているけど、いいのかな
「キャベリックか・・・こんなもんしかないのか」
「えぇ、あまり持ってきておりませんから。それに古代自体が希少な資料な為、このような遠征に持ち運びは紛失の可能性を考えるとしかたありません」
「そうか。まぁ仕方ないのう。ほれノエル、これでも読んどれ」
「あっ、ありがとうございます。えっと、ノエルですよろしくお願いします」
ギレルさんに革表紙の本を渡され、自己紹介のタイミングをすでに逃しているために無理矢理ねじ込んだ
「あぁ、私はハイマーだ。ギレル様の助手をしている」
「こやつはグリモワールの知識だけなら、儂よりも知っているぞ。知りたいことがあるなら、こやつに聞けばだいたいのことは分かっておるわ」
「ギレル様、それは言い過ぎかと。だが、新兵・・・メイジ3級でギレル様がつれてくるという事は、何やら見込みがあるという事か、私に役に立てることがあるなら何でも聞いてくれればいい」
「はい、よろしくお願いします」
ハイマーさんとの挨拶が終わり、ギレルさんはデスクに座りなにやら書類を描き始める様子だ
「ぼさっと立っておらず、そこに座って読んどれ。読み終わったらハイマーに返せばいいからの」
「は、はい。失礼します」
少し、緊張するこの空間だが、ギレルさんもハイマーさんも僕を気にする素振りもなくなり、己の仕事に戻っている様子から、僕も本を開いていく
革表紙の本だが、ページ数は20枚ほど
かなり薄い本だ。字もみっちりと書かれていない事から、この世界の一般的な本だった
渡された本は魔導士、キャベリックという人を書いた本だった
キャベリックという人の人生が短く描かれた人生譚。その中でキャベリックは一つのグリモワールを手にしたみたいだった
グリモワールの大きさは従来の大きさより、一回り大きく紫の表紙
開いてみると、グリモワールと繋がる感覚を覚えたが詠唱は分からない。
魔導士に弟子入りし、詠唱を習いグリモワールのことについて調べたが、4元素、神聖、深淵どの魔法も発動することは無かった
生涯彼はグリモワールを手にしても、一度も魔法を発動させることなくこの世を去ったようだ
この人はグリモワールを手にしてもリーディアとして生きたようだった
本を読み終わり、ぱたりと静かに閉じる
僕は何とも言えない焦燥感に包まれた
グリモワールは特別な物・・・だが、それを手にしたからと言って必ず魔法が使えるわけではない・・・
短い本の中でも、彼の必死の努力、一喜一憂が手に取るように分かった
それと・・・グリモワールの文字を読める存在はこの世界で数少ないことがこの本で証明されてしまったのだ
古代のグリモワール。なぜそう呼ばれるのかも、なんとなくだが理解できる
昔の人は字が読めていたのだろう、少なくても今よりは数が居たはずだ。それが徐々に読める人がいなくなり、数の多い4元素、神聖、深淵の詠唱が伝わり続け、見たことのないグリモワールはほとんどが古代と分類されたのか
僕の手にした、黄金の文字を浮かせる小さなグリモワール。この持ち主は詠唱を知っていた・・・古代のグリモワールでも受け継がれたものか、読める人に頼んだのか・・・それ以外は宝の持ち腐れなのかな
「どうじゃ、読み終わって何か分かったかの」
思考の渦に入っていると、ギレルさんから声が掛かる
「・・・そうですね、古代のグリモワールはそのほとんどが意味をなしていないのでしょうか」
「そうじゃな詠唱が分からなければ、ただのガラクタよ。儂なんか30冊はもっとるぞ」
「30!?」
その多さに驚愕する
「だがのさっき言った通り、全部ガラクタじゃ。読めはせんのじゃ」
「それを使えるようにするために、我々は日々研究をしている。いつの日か読めるようになると」
ギレルさんの言葉に続いて、ハイマーさんは自信を持って断言した
「・・・この文字、だれか生まれつき読める人はいないのですか」
「ほー・・・なぜそう思う?」
「いえ・・何となくですね・・・」
黄金の文字を読む魔導士の事は誰にも言っておらず、この質問をされた時にしまったと思ってしまう
「そうか、いるのはいるらしいがの・・・帝国にじゃ。法外な金をとるとかで、あまり詳しくは知らん」
・・・すくなくとも一人はいると知る
「古代のグリモワール、詠唱は受け継がれてはいないが。どのような魔法を使っていたかはいくつも資料が残っておるでな、空を飛んだり、火でできた鳥をあやつったりと・・・わしもそういう魔法を使いたいもんじゃ」
ギレルさんがそう口にした様子は、魔法に夢みる少年のようだった
「私はどんな魔法も通さない光の壁という物が好きですね」
ハイマーさんも同じように続くのは、この人達は好きでこの仕事をしているのだと分かる
僕は字が読める。この人達の手助けが出来るのだが・・・それを打ち明ける勇気は僕にはなかった
ギレルさんの所からお邪魔し、僕は一人になるとまた一人立ち尽くし、思考の闇へと落ちていく
折角手に入れた黄金の文字を浮かべるグリモワール。あの不思議で神秘的な現象をまたみたいのに、僕はそれを行使できるだけの勇気は今はない
僕がグリモワールを読めると知られても、不思議でない地位を手にするか・・・退役してからでないと・・・
がっかりした気持ちで僕はアルスさん達の所へ戻る。彼らの姿はギレルさんの場所へ行く前と変わらぬままの状態だった
僕は夕食を4人分受取、その輪の中に入っていくのだった
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