第13話 訓練場にて
「どうじゃナタリアの指導は」
兵士の訓練場にいくということなので、僕とギレルさんの周りに4人の騎士と兵士が警護をしている
「はい、知らない事ばかりなので勉強になってます」
「そうか、そうか。ノエルとアルスは正直、魔道兵としては・・・と思ったが、まぁ田舎者の兵士特有の擦れていない所がナタリアをつけてよかったかの」
けなされ半分、褒められ半分の言葉を貰う
「あ、あの・・・古代のグリモワールの事を教えて貰ったのですが、ギレル様なら詳しいとナタリアさんにお伺いしました。少し興味があるのですが、教えていただけないでしょうか」
「古代の~・・・わしもそこまで知らんぞい。世にあまり出ておらんじゃろうて」
「ナタリアさんも、ウォルター伯爵しか知らないと」
「ふぉふぉふぉ、そうか。なぜそんな事を知りたいのじゃ?欲しくなったか?」
「えっと・・・正直欲しいかは分かりませんが・・・魔法という物を身近に感じるようになり、もっと色々と知りたいと思うところがりまして」
「ふむ・・・お主が今回の戦で使えると分かれば、わしの研究資料をみせてやらんわけでもないが」
「研究ですか?」
「そうじゃ、わしは長年グリモワールの事を研究しておる。その中に古代のグリモワールの事も何個か調べてアルわい。ヤード砦を落としたら、一度王都に戻るのでな。そこで見せてやらん事もないわい」
「頑張り次第ですか・・・」
「じゃな、お主は年齢の割に落ち着いて・・・はおらぬか。任命式の時は笑いそうになったわい。まぁ見所はありそうじゃからな」
「あれは・・・緊張がピークでして・・・。いえ、それで今日はその第一歩というわけですね」
「ふぉっふぉっふぉ緊張か。そうじゃな、神聖はこの部隊にはノエル以外に5人と数が少ないのでな、新兵だろうが役に立つならそれなりに評価するぞ」
それがウィロスが別動隊として、成果をあげ金一封と昇格した証拠だ
僕らはそのまま、雑談を交えながら訓練場へと向かった。やはりギレルさんは、親しみがあり喋りやすく、人見知りをする僕でも言葉がすんなりと出てきた
訓練場へと近づくと、掛け声や木剣や盾が打ち合う音が聞こえる。鉄より軽い音だが、掛け声はかなり気合が入っている
「訓練官はいるかの?治療師をつれてきたのじゃが」
「ハッ、ただいま呼んでまいります」
ギレルさんは天幕近くにいる兵士へと声を掛ける
兵士は訓練場の奥へと走っていってしまい
「どうじゃ、もうこの訓練も懐かしく思うか?」
目の前で素振り、模擬戦をしている兵士達を前にギレルさんは質問する
「いえ・・・僕はあまり真面目な兵士では無かったので・・・」
「そうか、まぁ兵士には向いてはおらぬか。よかったのグリモワールを手にできての」
「でも、これを奪われたら・・・兵士に逆戻りですよね」
「まぁ・・・そうじゃな。だがの、グリモワールを奪われるときはほぼ殺されとるわい。グリモワールは主人が死なぬと次の新しい主人を見つけんのでな」
「・・・なるほど」
・・・アルスさんもそんな事を言っていたか
「それでも盗まれたりはあるがの・・・その時はリーディアとして生きていくことも出来るじゃろうて。お主が優秀ならの」
・・・リーディアの人達の中にはそういう人もいるのか、とまた知らない事が出てきた。
ギレルさんが声を掛けた兵士が、一人の騎士を引き連れて僕らの前へと姿を現す
「閣下、治療をして頂けるとお聞きしましたが」
「そうじゃな、この新兵の練習がてらじゃ」
「ほー、この少年が・・・」
ジロっと見てくる、訓練官といわれる騎士の目は好意的ではなさそうだった。僕は頭を少し下げるだけの挨拶をする
「わしもまだ魔法を見ておらぬのでな、実用かどうかは不明じゃ。まずはけが人の所へ案内してくれ」
「ハッ、こちらへ」
訓練で怪我をしたからと言って、手厚い看病はされていない。僕もその様子を知っていた為に、訓練では手を抜いていたのだ
訓練で怪我をしても、完治をするまでの魔法は掛けてはもらえない。重傷者や騎士やお金を払った人を優先されるのだ。
そんな状態で力の弱い僕は相手が本気で模擬戦をすれば、骨の1本や2本は簡単に折れてしまう・・・その為に模擬戦はいつもアルスさんやスナイプさんが手を抜いて、怪我をしないようにしてくれていた
訓練の端で怪我をして呻いている人達を通り過ぎ、僕らは訓練場の天幕へと進んだ
「こちらの負傷者からお願いいたします」
「ふむ、”癒しの光”をノエルやってみせてくれ」
「分かりました」
天幕の中には3人がマットの上に寝そべっている。最初に指示された負傷者は額から血を流しているが、それほど重症ではなさそうではある
僕らが天幕に入った時から、寝ている状態から座る姿勢へと変わったからだ
「頼むぜ魔導士さんよ」
そして喋る余裕があることから、この人は騎士か何かなのだろう
グリモワールを開く。長い詠唱を間違わずに読み
「”癒しの光”」
グリモワールから繋がる右手の光を兵士の額へと向ける
「ほぉ・・・」
ギレルさんが呟くのが聞こえるが・・・そういう意味深な表現は心臓に悪いのでやめてもらいたいとおもうこのごろだ
「どうでしょうか、魔法は成功していると思います」
僕は魔法を使った騎士へと声を掛けると
額の傷があった場所へと、ゆっくりと触り傷口を確かめ、痛くないことを確認するとゴシゴシと頭をなぞる
「治ってる、ありがとよ」
「よし、訓練に戻れ」
すべて確認終わると、騎士は訓練に戻るために立ち上がると天幕から出て行った
「ふむ、ノエルの魔法は問題ないようじゃな」
「はい、僕も安心しました」
「では、次はこちらの者を」
次の兵士も腕が折れていたようだが、すんなりと魔法で治る様子は魔法をかけた僕も驚いた
最後の兵士はずっと動かずに、ずっとぐったいりとしている。僕らが入った時から動いてはいないのだ
「では最後ですね」
「この者は・・・あれか?熱毒か?」
僕が最後に魔法に行こうとすると、ギレルさんはその人の症状を見てか熱毒という
「恐らくそうかと・・・ここでも流行っているのか、最近多いですね」
「そうか・・・まだノエルには知らぬ魔法が必要じゃな。マジールかユーリを連れてきてくれぬか」
ギレルさんは癒しの光では治らないと判断し、他の神聖のグリモワール使いへの要請を呼びかける
「ギレル様、熱毒というのは?」
「熱毒を知らんか?兵士達の中では結構かかるやつが多かろうて」
なにやらメジャーな毒のようだ
「不勉強ゆえに、初耳です」
「そうか、熱毒の原因は分からぬが・・・暑い日に起る病気じゃな。手足がしびれ、意識がなくなり、運が悪ければそのまま死にいたる病気じゃ」
「ふむ・・・」
ギレルさんの話を聞く限り・・・熱中症や熱射病のように感じる
水でさえ、貴重なこの世界。鎧を着こみ剣を振り回せば・・・ありえる話だ
だが、それを知っていたからと言って・・・何か僕に出来ることは・・・
対策として水を飲めや、塩を舐めろと・・・いや僕には・・・
僕は質問したまま、黙って他の神聖使いがくるのを静かに待った
◇
一人の女性の魔導士が到着した。紋章をみると星が3つなのでメイジ1級のようだ
「マジール、忙しい中悪いの。こっちのやつが熱毒でな、”解毒の風”をたのめんかの」
「いえ、ギレル様の要請とあらば、わたくしに出来ることならいつでも馳せ参じます。では早速」
マジールという女性はグリモワールを開くと、目を閉じた
口元はわずかに動いているが、声には出していない
そして1分ほど待つと
「”解毒の風”」
マジールさんは、目を開き魔法名を口にした
そよ風のような光の波が、ぐったりとした兵士へと駆け抜けていくのが見えた
「ギレル様、終わりました」
「ご苦労じゃったな、悪かったのもう戻ってよいぞ」
「はい、またお呼びください」
ぐったりと倒れている兵士に変わりはないが、これで治療は終わっているのかマジールさんはまたすぐに出て行った
「こちらで今の負傷者はおわりでございます。閣下、お礼申し上げます」
訓練官は、ギレルさんへ小袋を渡す。それを受け取りながらギレルさんは
「よい、こっちも新人の能力といい勉強になったわい」
天幕をでて、訓練官の騎士も指導があるということで離れて行った
「ノエルの実力も分かったのでな、ワシらも退散するかの」
「はい」
僕らはまた天幕から、訓練場を抜けて戻ることに。また訓練場の隅でうなだれている兵士の横を通りすぎることに
「あ、あの、あの方達に治療は・・・?」
僕はおずおずと聞く
「気になるか?魔法を使いたいなら好きにすればよいが・・・あまり良くは思われんぞ」
「・・・なぜでしょうか」
なぜ治すのに、よく思われないのか意味が分からなかった
「一応、先ほど治した者たちはな・・・金を払っておる。それがただで治すとなると・・・兵士からは好かれるかもしれんが、騎士や他の魔道兵からはどう思われるからじゃ」
「あぁ・・・そういう・・・」
知っていた事だ。だが魔法をかける側になっても付きまとう問題のようだ
「規則というわけではないがの、ここでは訓練官がおるのでなあまり勝手な事は出来んのが現実じゃ。貰ったこの金も魔道兵の物資などに回しておるからの」
魔法で稼いだお金は個人へは行かず、軍で管理をしているようだ
紋章が銀素材。食糧も兵士より優遇され、バスタブや天幕などの施設もある・・・という事は魔道兵は維持にコストがかかっているという事だ
魔法が使えるからと言って、個人でのお金儲けは言わなくても禁止されているという事なのだろう
そんな裏事情があるという事を知っていると・・・呻いている兵士には申し訳ないが、公の場では魔法を行使できないという結論にいきついた
「分かりました・・・」
「まぁそのうち慣れるぞ。割り切ることも大事じゃ」
ギレルさんと魔道兵の野営地へと戻ると、机に伏せているアルスさんとロッツさんがいた。その頭をパシパシと叩くナタリアさんの表情は兵士の訓練官と同じ顔をしている
「ふぉっふぉっふぉ、あっちはまだまだそうじゃな。ノエル、このまま儂の所で古代のグリモワールの資料を少しみせてやるかの」
「えっよろしいのですか?」
「お主の魔法に問題なかったからの。本はあまり持ってきてはおらぬから、そう大したものはないが、少しは役に立つじゃろうて」
「ぜひお願いします」
「うむ、では騎士らよ護衛すまなかったの。こっちじゃわい」
ギレルさんは騎士らの護衛を解き、僕はギレルさんと一つの天幕へと足を運んだ
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