第12話 魔導兵が鎧を着ないわけ

「それじゃあ始めるわよ。まずは~・・・何から手を付けようかしら」


「魔法の事を教えてくれよ。ここのルールなんて、暮らしてたらそのうち覚えるだろ」


・・・えっ、僕はルールから教えて貰いたかったけど、まぁアルスさんがそういうならそれでいいか


「そう?じゃあ基本魔法から教えるわ」


「おっ、頼むぜ」


「お願いします」


食事をしていた席に、ナタリアさんも腰掛け僕らの座学が始まった


「いい、基本魔法っていうのは、グリモワールの種類に関わらず同じ魔法が使え魔法のことよ。あなた達も知っている”水よきたれ”や”加熱”なんかがそうね」


「あと冷却も知ってるぜ」


「そうね、湯あみ場で後ろから見てたわ。あの時、ノエルがあるって気づいてたわよね?」


「だぜ、すげーだろ」


「たまたまですよ」


アルスさんが褒めるため、ずるをしていたが少し照れて、ほほをかく


「ふ~ん、じゃあ他にも何か基本魔法で心当たりはあるかしら?」


クイズ形式のような質問にかわり、僕はあと何個かは読んで覚えている魔法があった


「う~ん・・・水があるという事なら火もでしょうか?」


「おっ俺もそれ思ってたぜ!」


「そうね、正解よ。”火よきたれ”の魔法があるわ」


「やっぱりな!となると・・・詠唱はこの源に感謝をか?」


「へー正解よ、アルスも少しは頭が使えるのね」


「うるせーよ!」


賑やかな座学だ


「他にはあるかしら?」


「う~ん・・・ノエル分かるか?」


「何、アルスは火だけなの?」


「・・・悪いかよ」


後は風よきたれだ、後は読んでいない為わからない。だが、4元素ということなので、もう一つはきたれの呪文があるはず、それに光よきたれなんかもありそうだが・・・


「う~ん、その前にヒントください。アルスさんのもつ4元素のグリモワールの4元素ってなんですか?」


「・・・ノエル、もう答えを知ってるかの様ね。でもこれを先に普通は教える事だからいいわ」


そこでナタリアさんの説明は一度グリモワールへと飛んだ


グリモワールの種類は大きく分けて4つ。火、水、風、土をつかさどる四元素のグリモワール、光をつかさどる神聖のグリモワール。闇をつかさどる深淵のグリモワール。それとその3つに属さない古代のグリモワール


そこでピンときたアルスさんは、僕の質問から基本魔法の種類をいいあてにいく


「わかった!!”風よきたれ”、”土よきたれ”、光よきたれ”、闇よきたれ”だ!」


「ちょっと、今グリモワールの説明中!・・・まぁそうよ、今言った基本魔法は正解ね」


「へへーん、ピーンときたんだよな」


「うるさいわ、このぐらい誰だって気が付くし、ノエルはほぼ気づいて質問しているわよ」


2人が会話をしているが、僕の思考はよそにあった


古代のグリモワール・・・ナタリアさんは種類があるというだけで、詳しい事はあまり知らないという事だ


だが、僕は持っている確信があった。あの黄金の文字を浮かばせる小さなグリモワール。深淵のグリモワールを見たことないが、恐らく僕が持っているのは古代のグリモワールだ


まだどんな魔法が記されているのか、一人になる時間が無く確認できていない。


だが、僕の中で詠唱の言葉、なぜあの魔導士があそこにいきなり現れたのか、グリモワールを手に入れた経緯を話た時の王子たちの言葉。その全てを一つに合わせていくと、僕の中で答えが出そうになっていた


「おい、ノエル聞いてるかー?」


「あんたがうるさいから耳が遠くなってるのかもしれないわ」


アルスさんに声をかけられ、思考の沼にはまりかけていたところで意識が戻る


「えっ、すいません。考え事を・・・なんの話でしたっけ」


「基本魔法は、全てでたから次の話に言っていいかって、ナタリアが聞いてるぜ?」


「急に黙っちゃって、なに考えてたの?」


「あっ基本魔法は理解しました。えっと、古代のグリモワールって何なのかなって・・・」


しどろもどろになりながら質問する


「あぁ~・・・私も本当に詳しくないのよね。唯一知っているのは、四元素、神聖、深淵を全て使う事ができるグリモワールを、王国一の魔道兵マーリン・ウォルター伯爵が持っていることかしら」


「マーリン・ウォルター伯爵・・・」


「へー、知らねーな」


「それはそうよ、マーリン様は王の懐刀。常に王のそばに使えているのだから、あなたみたいな辺鄙な村出身の兵士には無縁の存在よ」


「・・・辺鄙な村出身で悪かったな。だけどな、獲れる魚は世界一だからな」


アルスさんの村の自慢話は長いんだよね・・・そうは思うも故郷を大事に思うアルスさんの表情は明るいものだ


「あぁ、もういいってアルス!悪かったわ辺鄙な村とか言って!」


長々と喋るアルスさんの村自慢に、ナタリアさんがねをあげた。


「分かったか、ならナタリアも今度連れて行ってやるぜ」


「・・・まぁ期待せずに待ってるわ。えっとまた話がそれたけど、ノエルの質問にはウォルター様ぐらいしか答えれないわね。ギレル様なら他にも知っていると思うは、時間があれば午後にでも聞いてみなさい」


「分かりました」


知りたい事は山ほどある、だが頭の中でまとめれていない事だらけ。ナタリアさんも何から教えようかとこまねいている


そんな状態でも、僕らの午前の座学は進んでいった


「基本魔法、グリモワールの事はこのぐらいかしら?そっちからは何か質問ある?」


「・・・なんかあるかノエル?」


「う~ん・・・あっそうだ。なぜ魔道兵は鎧を着ないのでしょうか?」


これは湯あみ後のナタリアさんの言葉が気になっていた事だ


「あっだよな!俺も思ってた!」


「アルスはそればっかりじゃない。いいわ、それは実戦訓練の時に話す予定だったけど、今教えるわね」


朝の集会に集まった魔道兵、全員鉄製のような金属鎧を身に着けていなかった。着ていたとしても革の鎧やベストぐらいだ


「俺は魔道兵でも鎧着るつもりだぜ。なんで他の先輩方が着てないのか不思議で仕方ないな」


「・・・グリモワールの事しらない人達はみんなそう思ってるわよね。特に兵士の人なんかは、俺達は重い鎧着て、魔道兵は涼しそうな服装しやがってと」


「俺はそこまでは言ってねーぞ。でも思うところはあるよな」


「まぁ仕方わなよね、みんなグリモワールの事なんて知らないのだから」


知らないからそう思うって事は理由があるという事なのかな?そのまま聞いてみることに


「ナタリアさんの言い方から・・・魔導兵は鎧を着れない訳があるって事ですね」


「そういう事よ。鎧を着るとね、グリモワールから出る魔法の威力が極端に減るのよ」


「鎧?」


「そうよ、鎧というより金属よ。金属は魔力を吸うの」


「魔力を吸う?」


ナタリアさんが説明する言葉に、アルスさんは度々?マークを飛ばす


「そう、言葉で言ってもあまり理解できないでしょ?だから実戦訓練の時に説明しよとしていた内容なの。でも言葉の意味通りだから、魔道兵は金属鎧を身に着けれない理由なの」


「じゃああまり装飾品なんかもつけない方がいいってことですか?」


「そうだけど、一概には言えないわね。魔力が上がる宝石なんかもあるらしいわ、眉唾物だけどね。何がどんな風にグリモワールに左右するかは今だ研究段階、王国や帝国も分かっていない事だらけよ」


「その中で鉄だけははっきりと分かっているって事か?」


「そういう事。だからアルス、あなたも鉄の鎧は着れないからね」


「折角、新調したっていうのによ・・・仕方ねーか」


「あっだから剣や盾も持てないからね」


「・・・まじかよ。そんな丸裸で戦地に立つのか俺達」


「だから騎士や兵士に守ってもらうんじゃないの」


「・・・正直信用できねーな。足元にでもおいとけばいいか・・・」


「それは私に言われても・・・信用できる人を作ることね」


アルスさんは、もう何年も兵士として剣と盾で戦ってきている。最初に僕にかけた言葉も盾をおろすなだ


それにハウンドからも一命をとりとめたのは、鎧のおかげだ


それを手放すというのは勇気がいりそうな事だと思う


「・・・この紋章は鉄製ではないのですか?」


「いいところに気が付くわね。そうよ、それは銀製。だからそれも大事にしなさいよ」


「銀!?これだけの大きさで銀っつったらよ・・・銀貨20枚分はあるか!?」


「銀は鉄よりも魔力を吸わないと言われているわ。だからあなた達もこれから物を買う時は素材も気にしなければいけないのよ」


「魔道兵って結構金掛かるんだな・・・」


殺した魔道兵の持ち物の食器が銀製なのに、納得した


「他に何かある?」


「あっ、朝の集会でウィロスの紋章に何してたんだ?」


「あー、あれは星型をつけているのよ。紋章にね、それでその人が何級か判別できるようにね」


「俺達は星が一つか」


「そうあなた達はメイジ3級、星二つが2級、星三つが1級よ」


「ややこしーな・・・星が増えて、級が減るのかよ」


「そういうもんなの。メイジの上にウィザード、その更に上にソーサラーと別れているわ」


「・・・だー、今は覚えなくていいか」


一通りの説明が終わり、アルスさんが昨日買った時計を確認すると11時10分といい時間になっているようだ


時間を確認しおわり、アルスさんは口を開く


「なぁリーディアって待遇よくねーのか?正直どんな立ち位置なんだ、ナタリア達って」


おぉ・・・直球ストレート・・・オブラートに包むというのをしらないアルスさん


「・・・待遇はいいわよ。魔導兵と同じようにされているからね、まぁそれが一部の兵士や騎士、魔道兵には反感を買っているのは事実よ」


魔道兵ですら羨むのだから、戦わずしてそういう立場なら余計に風当たりは強いようだ


「だから遠慮してるってことか?」


「遠慮ではないわ・・・それが当たり前なのよ。でもここはまだましよ、ギレル様のおかげでリーディアの待遇は他の軍と比べて格段に向上しているもの」


「へーギレル様がね~」


アルスさんはチラっとナタリアさんの後ろをみる


「そう、魔法だけでなく人柄も最高の方なのよ」


ナタリアさんは待遇の話を始めた時から、声は暗く、表情も悔しそうな顔をしていたが


ギレルさんの話に変わった時から、またパッと花を咲かせるように明るく喋る


「ふぉっふぉっふぉ、そこまで褒められるとちと恥ずかしいもんじゃ」


僕とアルスさんはギレルさんが、ナタリアさんの後ろから近づいてくるのを見えていたが


背中越しから、不意に話しかけられたナタリアさんは


「ひゃっ!?ギ、ギレル様!?」


飛び上がるかのように立ち上がる


「ちょっと早いが、小僧を少し借りにきたが・・・よかったかの?」


「えっはい!アルス、ノエルすぐに立ち上がりなさい!」


先ほどとは変わり、体を堅くするナタリアさんの様子は本当にギレルさんを尊敬し緊張しているようだ


ナタリアさんの言葉に僕とアルスさんも立ち上がる


「小僧、ノエルといったか・・・兵士が訓練しとるのでな、そこに治療しにいくぞい。そっちのアルスはナタリアのいう事を聞いて、火炎ぐらいは使えるようにしておくのじゃ」


「はい」


「分かりました」


僕とアルスさんが返事をする


「ではの、ナタリア後を頼むぞ。いくぞノエル」


午前の座学はギレルさんの登場により、話の途中ではあるが終わってしまった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る