第9話 知らないほうが幸せな事

「なぁ、あんたは紋章つけてないけど。クラスはなんなんだ?それと白のケープと青はどういう風に分けてる?」


ナタリアさんの説明が終わり、アルスさんが質問した。それは僕も気になっている事だった


「・・・私は魔道師ではないの。白いローブの人は全員そうね」


少しいい辛そうにそういう


「魔道兵じゃない?」


「そうよ」


「グリモワールを持っていないってことなのか?」


「それもだけど・・・はぁ、私達は魔法が使えない人間なのよ」


アルスさんの、ぐいぐいいく質問にナタリアさんは諦めたように、ひとつため息をはくとそう言った


そして魔法が使えない人間という事が全てなのだろう・・・


グリモワールを手にしたからと言って、みな使えるわけではない。僕やアルスさんがすんなり使えた為にその事を忘れていたのだ


「あぁ・・・そうなのか」


「そうよ、あなた達に偉そうに教育係っていったけど・・・本当は、身の回りの世話係なのよ。白のローブの人はね」


悔しそうにナタリアさんは言う


「もうここまで聞いたから、聞くけど・・・じゃあなんで詠唱とか知ってんだ?」


そこも僕も気になる所だ。ナタリアさんはこの話題は言いたくなさそうだが、結局だれかに聞くなら僕もここで聞いてスッキリしておきたいと思い、食事をする手を止めてナタリアさんを見る


すると渋るようにだが、ナタリアさんは口を開いた


「・・・私達はみな貴族や元貴族、大家の商人の跡取りなどよ。小さな頃からグリモワールの英才教育を受けてきた人達」


「・・・」


「・・・」


僕とアルスさんは静かに話を聞く


「グリモワールが使えると言われているのは、15歳などの体がしっかりとしてきたときから。そこまでに中級までの詠唱はあらかた教わっているわ・・・」


秘匿とされている詠唱だが、貴族やお金の力で将来国に貢献できると思われているのなら、そうなるのか


いざグリモワールを手に入れても、アルスさんのように詠唱をそこから覚えるよりも効率的なのは確かだ


そこまで聞いたらもう理由はほぼ分かったに等しい


「それで私達は知識はあるけど、魔法は使えないってわけ」


「おう・・・」


流石にアルスさんも、気まずそうにしている


「まぁそのおかげで、あなた達、魔導士見習いに教えるって仕事であなた達とほぼ同様の待遇うけているけどね」


僕らの様子を見て、さきほどとは変わって明るさを取り戻しそういうナタリアさんだが・・・実際は魔法を使いたいのだろう


その様子に逆にナタリアさんの方が気遣いを見せる


「なに2人して神妙な顔してるのよ。さっきまでの生意気な威勢はどこいったのよ」


「いや・・・まぁなんて言ったらいいか」


「そうですね・・・」


それもアルスさんも分かり、僕らは言葉が詰まり何も言えない。いや元から僕は喋っていないが、気の利いた言葉なんてでてこないのだ


「魔法が使えないのは残念、正直悔しいわ。だけど、私は少しでも魔法に携わっているこの仕事も気に入ってるわ」


やはり悔しいと思ってはいるようだが、後の気に入っているというのも本心のように聞こえる


「そうか」


アルスさんもその様子にナタリアさんの心境を呼んだかのように返事をした


「それに私達だって戦地に立つこともあるのよ」


「は?あぶねーだろ!?」


「えっ」


「今回、アルスの出来次第でそうなると思うわ」


「なんで俺次第なんだよ・・・?」


ナタリアさんの言葉で僕は理解し、言葉に出す


「アルスさんが覚えれなければ・・・ナタリアさんが戦場でアルスさんの横で詠唱をしてアルスさんに復唱させるんですね・・・」


「そういう事」


「おいおい、まじかよ・・・」


「本当よ、私達もいい待遇で後ろでぬくぬくというわけではないって事。それにそうやってると自分が魔法仕えているような感覚にもなれるしね」


そういいながら、ナタリアさんは席を立つ


「今日は最初だからこのぐらいにしておくわ、また明日に天幕に迎えに行くわ。アルスは明日一日中詠唱よ。ノエルは・・・ギレル様に癒しの光が使えるって報告しにいくから、どうするか聞いておくわ」


そういい残し、ナタリアさんは僕らの空になったお皿を持ち行ってしまった


「なんか、わりぃこと聞いたな」


「いえ、僕も気になっていましたし、いずれ知ることでしょうから・・・」


「そうだよな・・・あっこれサンキュー。俺も自分の用意しねーとな」


アルスさんはフォークを返してきた


僕も自分が使ったスプーンを水で洗い流そうと、水よきたれをまた唱える


「あっアルスさん、これゆすぎたいのですが片手が塞がってて・・・」


「あぁいいぜ。というか俺が水とかは出す方がいいんだよな?フォーク借りたんだからそれぐらい頼めよな」


アルスさんは僕からスプーンとフォークを受け取り、水球の中に手事いれてごしごしと手で洗う


「いやぁ・・・正直魔法が使えるのが嬉しくて使ってしまいますね」


「そうか、まぁ次から言えよな」


「分かりました」


アルスさんが洗い終わると、その水球をまた地面に捨てようとした時に


「あっ待って待って!」


近くにいた、白のケープの男性からストップと声が掛かる


「えっはい、僕?」


「そう、その水もう捨てようとしているんだろ?」


「はい、そうですよ」


「君達、新人だろ?水を捨てる場所があるからついておいで」


水を捨てる場所か


「へー、そういうのもあるのか。行こうぜノエル」


「はい、すいません教えてください」


僕は片手に水球を浮かべ、グリモワールが閉じないようについて行く


「僕はラウンドだ。よろしく頼むよ」


ついて行きながら、自己紹介をされる


「俺はアルスです」


「ノエルです」


ラウンドさん、30歳ぐらいだろうか?あごひげだけ薄く伸ばし、糸目の金髪。ほっそりとしたその体系だが気品がある雰囲気は・・・ナタリアさんがいうように生まれの良さが垣間見える


ラウンドさんに連れてこられた場所には樽が並んでいる。その中に水を捨てるようにいわれるが・・・どこか見覚えのあるような感じだ


「なんか見覚えないか、この樽・・・?」


「ですねー」


僕らの会話に、ラウンドさんから答えを言われる


「君たち兵士上がりだろ?これは兵士達の飲み水になっているからね、見覚えがあるのはそのせいさ」


兵士の時は、この樽に入った水を汲み、水筒いれて飲み水にしていた


うっ・・・いや、そうなのかもしれないが、わざわざ魔導師が飲み水の為だけに水を出してはいないようだ


「・・・俺達こういう水飲んでたんだな。世の中知らないほうが幸せな事もあるのか」


「みたいですね・・・」


僕らは食器を洗い終わった水だが・・・もしかすると風呂に使った水なんかも・・・そう思うと途端に気持ち悪くなる


「君たち魔道兵は、魔力を蓄えるために兵士よりいい食事をし、いい環境で眠る。だから水といっても無駄にはしてはいけないよ」


「分かりました」


「はい」


ラウンドさんにもっともな事を教えて貰い、その場を去って行った


「ラウンドさんいい人だったな」


「ですね、水も貴重ですからね。気を付けなければいけないですね」


僕らはまた2人残されてしまった。まだ日は完璧に沈んではいない・・・それに見張りも言い渡されていいないし・・・ゼーレ隊長が亡くなり、僕らはどの隊にはいっているのか


「どうする?もどるか?」


「う~ん・・・僕はまだ誰かに話が聞きたいですが・・・」


「だよな~、まぁ話を聞くのは青のケープじゃなく白のケープってことは分かるな」


「ですね」


丁度樽がいっぱいになった物を白のローブの人達が運んでいく。だが白のケープの人達も手でその水をすくい水を飲むの姿を見る、何とも言えない気持ちで見送り僕らはその場を離れた


「またあそこに座ってるか?で誰か捕まえて教えて貰うか?」


「そうですね~・・・あっ」


「おっどうした?」


「あそこの魔導士と兵士達の野営地の堺で、物売りがいません?」


「・・・おー、本当だな!丁度いい、暇だし見に行こうぜ」


「はい、行きましょう」

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