第10話 行商人
横2mほどの長方形の絨毯の上に品物を並べ、露店のような物を開いている
兵士達にはほぼほぼ見られておらず、白のケープの人が2人ほど見ているぐらいだ
「おっ魔導士の旦那方、いい物そろってますよ!」
店主と思わせる男性は小さな椅子に座り、その横に大きな背負いカバンを置いている
とんがり帽子をかぶり、カールした口ひげはどこか胡散臭いが、兵士の野営地に入れているということは、めちゃきちゃ怪しいわけではなさそうだ
雰囲気としては行商人のようだ
置いてある物は、器やナイフなどの食器から、指輪やネックレスなどのアクセサリー、何もかかれていない羊皮紙に、グリモワールではなさそうな書物、食料も売っている
色々な物を売っている雑貨屋のようだ
「おやっさん、フォークをくれ」
アルスさんは特段商品を見もせずに、自分が欲しい物を注文する
「おぉ純金製のいいものがあるのですよ、値段は張りますが旦那には丁度いいかと」
「純金?そんなのいらねーって、木か鉄でいい」
「まぁまぁそうおっしゃらずに、みれば旦那もほしくなりますよ」
恐らく魔導士は商人のカモなのだろうか、お金を持っていると思われているようだ
「いやいいって、俺達は魔導士になりたてで金そんな持ってないんだよ」
「・・・そうですか。残念ですね」
アルスさんの言葉に商人は気分を落とし、鉄のフォークを進める
「こういうので十分だぜ」
アルスさんはフォークを買うと、商人は僕へと声をかける
「そちらの旦那は何か欲しい物はありますか」
「僕は・・・カップを」
水を片手に食事をするのは、結構めんどくさかったのだ
これからは水筒がいらないと思うと、カップを持ち歩こうと思う
「カップだと・・・真鍮か銅製ですかね」
「軽い方がいいですね、大きさもあまり大きいのはいらないので」
「じゃあこちらの銅製がよろしいかと。こちらは銀貨1枚ですな」
商人に勧められたのはカップというよりかは、小さなゴブレット。下の部分が邪魔だが、まぁ見た目も悪くないのでそれにする
殺した魔導士がお金持ちだった事もあり、銀貨1枚と高いが難なく買えるのはありがたい
「他に何かありますか?」
そういいながら、商人は懐から丸い手に収まるぐらいの金属を取り出しチラっとみて言う
えっあれ時計!?
時計というものがあるのは知っていた。時計塔が生まれた村の隣にある街にあったからだ
だが、懐中時計の存在は初めてだ
「あっ商人さん!その手にもってるの見せてください!」
「おっ・・・これが何かお分かりなのですかな」
「恐らく・・・時計ではないですか」
「ほほおー、正解ですな。ですが、こちらは売り物ではないのです。売り物の時計は・・・」
やはり時計だ。あれは欲しい・・・ガサゴソと背負いカバンを探る商人
待っている間にアルスさんに聞かれる
「あんな小さな時計あるのか?」
「僕も存在は知ってましたが、初めて見ました」
「へー」
アルスさんと話をしながら待つと、あったあったと商人は見せてくる
商人が持っていたものよりも、もう一回り小さな物だ
「これは7日に一度巻けばいい物ですな。もし時間がずれたとて、大きな街の時計塔をみながら簡単に合わせられますので使いやすですよ」
そう説明されながパカリとカバーのような蓋を開いて、僕に手渡された
受け取った懐中時計。数字が分かるような盤はなく、中の歯車がむき出しだ。長針と短針の位置で時間を分かるもののようだ
それでも噛み合って動く、歯車は何個も重なり合い、見ていると面白い
持ってみても軽く荷物にもならないのはいい。僕はこの無骨で時計としては少し不便なこれが気に入った
「へー・・・時刻はないんだな。針だけか」
僕の手に持つ時計をアルスさんも同じように覗きこむ
「いかがでしょう、時計自体が珍しいものですのであまり世に出回りません物ですよ」
「・・・いくらですか?」
僕が値段を尋ねると、ニヤリと笑う商人。それをみると吹っ掛けられるのは目に見えていた
「そうですな・・・魔導士様にはこれから贔屓となると思いますからな・・・金貨5枚でいかがでしょう」
金貨5枚・・・やはりかなり高い・・・。兵士の月の給金は銀貨1枚が基本だった
銀貨1枚あれば、質素な暮らしをすれば1っか月くらせる
貨幣は鉄貨、銅貨、銀貨、小金貨、金貨の5種類
魔道兵になって給金があがるのか知らないが、僕の手持ち、魔導士から奪ったお金をもってしても買える値段ではなかった
「いや、たけーよ」
僕よりさきに値段に反応したアルスさん
「ですね・・・」
「ほっほっほ、そうですか。手持ちがなければ仕方ありませんな」
欲しいのは欲しいが、手を伸ばせば届くならまだしも、ここまで無理だと分かると逆に諦めがつく
「すいません、このカップだけでいいです」
「そうですか、残念ですな。次私が来た時には残っているか定かではありませんぞ」
なにやら買わそうとはしているようだが、手持ちが本当にないのだ
「仕方ないです。でも携帯する時計があると分かっただけでも満足です、またどこかの街で探してみます」
「だな、これから色々回るかもしれねーしな」
魔道兵になったのだから、給金を貯めて買おうそう思い僕らは露天商から離れようとすると
「まっ、待ってください。いくらかお値下げすることも出来ますよ、それか何か物々交換でも」
何も交渉していないのに、商人の方からそういってくるのは・・・この時計は良いものではないのではと思えてしまう
「値下げ?金貨5枚を小金貨5枚にでもしてくれるのか?」
アルスさんがそういうと、流石にそれはとおもったが
「小金貨5枚なら買えるのですか?」
商人は思ってもみない事を口にだした
「・・・これ本当はいくらの価値だ?正直俺達が買った、食器類も割高だろ」
アルスさんも疑いのまなざしで商人をみる
「街で買うよりかは、こちらに持ってきておりますのでそれは仕方のないことです。時計の価値は小金貨5枚は妥当かと」
「そうか・・・まぁそこは納得した。だが、時計の価値は・・・信用できねーな」
「あっアルスさん。白ケープの方達は貴族や商家だとナタリアさんが言ってましたね。そのひとたちなら時計が街で売られている値段を知ってる人がいるかもしれませんよ」
僕にして冴えてると思う考えだ
「おっいいな。おやっさんもう少しここにいるだろ?ちょっと聞いてきて、小金貨5枚が妥当なら買うぜ」
僕とアルスさんの言葉に目が泳いだ商人は
「わ、分かりました。こちらは小金貨3枚で結構です!」
ドンドン安くなっていくがここらが、輸送代などを考慮すると妥当に感じる
「だとよ、どうするノエル?お前がいらねーなら俺が買おうと思うが」
「あっアルスさんも欲しいならどうぞ。僕は分け前をお金がじゃなくナイフなどにしたので小金貨3枚もありませんし」
「いいのか?じゃあおやっさん、小金貨3枚だ」
アルスさんも魔導士から頂いたお金を折版した為に、お金は持っていた
「いやはや、お二人ともお若いのにしっかりしてらっしゃる。またご贔屓にお願いしますね」
商人はうさんくさい演技でぽけっとからハンカチを取り出し、汗をぬぐう仕草をした
「おう、ぼったくるのもほどほどにしとけよ」
「またいい物があれば教えてください」
僕らは露店から離れると、商人も店じまいを始めた。きずけば日は沈みかけている
「もう夜か・・・今日一日で色々ありすぎたな」
「ですね、アルスさん詠唱全く覚えてないんじゃないですか?」
「は?馬鹿にすんなよ!・・・」
そうは反論したが、アルスさんの顔は険しくなる。冗談でいったつもりが本当に一節も思い出せない様子
「えっと・・・ごめんなさい」
「いや、少し聞いたら全部おもいだすっつーの!」
「えっあっそうですか。まぁそろそろ、僕らの天幕にもどりますか」
こうして僕とアルスさんの魔道兵一日目が終わったのだった
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