第6話 魔道兵へと

ワーズ指揮官率いる、別働隊は村から馬と馬車、食料などの物資を手に入れ、2日後には本隊が陣取る野営地へと合流する運びとなった


移動中にスナイプさんは僕らを露骨に避けるようになっていた


アルスさんもスナイプさんの心境を察してか、無理に接しようともせずにしていた


アルスさん、スナイプさん、マールさんと数少ない頼るべく人が、一気に減ってしまい、今はアルスさんの後ろをただついて行くだけだった


「ノエル、本陣に行くぞ。魔道兵になり、グリモワールの教えを乞いに行こう」


「はい」


本隊と合流してすぐの事だった。ウィロスが意気揚々に別動隊の戦果をワーズ指揮官と報告しに行く様子がみてとれた為、僕らもその後ろを追従する


一つの天幕へウィロス達が入っていく。しばらく待っていると、ウィロスの大きな喜ぶ声が聞こえる。


この人は怒鳴るか喜ぶかのどちらかの声しか上げないのだろうかと、待っている間にそんな事を思う


時間にして何分だろうか・・・20分ほど待っていると、小袋を握りしめた上機嫌なウィロスが出てくるのが見え


「そろそろか、行くぞノエル」


「はい」


少しアルスも緊張した面持ちで、ぼくらは天幕へと近づいていく


ウィロスとすれ違うが、すでに僕らの事は眼中にないのか覚えていないのか、小袋の中身を確認しながらどこかへ歩いていった


「まぁあれだけの戦果をあげれば、金一封はでるだろうな」


「羨ましいですね」


「俺たちもこれからだ」


僕らが天幕に近づくと、入口で警備している騎士へ止められる


「とまれ!ここは王子が滞在している場所だ!」


「俺たちは別働隊として、補給路の村へ行った際にグリモワールを手に入れた。魔道兵になる為にそれを報告しにきました」


アルスがそういうと、警備している騎士が怪しむ顔つきで


「2人ともか?見せろ」


グリモワールの提示を求められ、僕らはそれぞれのグリモワールを取り出した


「4元素に神聖か・・・そこでしばらく待ってろ」


僕らにそう伝えると、見張りの騎士は天幕に声を掛け、中へと入って行った


「4元素に神聖だとよ?知ってるか?」


「いえ・・・でも、恐らく僕とアルスさんのグリモワールの色が違うので種類かと思います」


「まぁそうだろうな、使える魔法の種類が違うってことなんだろうな」


おおよその推測は出来るが、本当にグリモワールの知識はほぼほぼ無いに等しい。実際みた事、回りまわった噂程度の内容そんな物しかアルスさんもないようだ


しばらく待っていると、天幕が開き


「中に入れ、任命式をするようだ」


「はい」


「はい」


僕らは体を緊張で固くし、天幕の中へと入っていく


天幕の中は、軍議室のようになっており机に書類が広げられている


魔道兵と思われるローブを着た老人に、騎士が3名と、別働隊で一緒だったワーズ指揮官が席に座っている


その中でも一番奥、上座に陣取る20代半ば・・・いや前半のような青年がこちらを見据え堂々と座っていた。この人が第四皇子グリード・・・兜を抜いだ顔をみるのはこれが初めてだった


「このものたちがグリモワールを手に入れたという兵士です!おい!ぼさっとするな跪け!」


僕らを招き入れた騎士が、僕らを紹介するやいなやそういうのだ


礼儀なんてものが分からず、そう言われアルは直ぐに跪き、僕もそれにならい続く


「よい、楽にしろ。そんな堅くなっては話もできん」


すぐに王子から声を掛けられ


「立て、閣下が楽にしろとのことだ」


騎士から同じように言われ、僕らは立ち上がる


「ゴドリック、ご苦労。下がってよい」


「ハッ!」


ゴドリックと呼ばれた騎士は、本来の見張りへと戻ったのだろう


「さて・・・まずはどこから聞くかな。それを手に入れた経緯を聞こうか、ワーズの報告には魔道兵はいなかったあるからな」


王子自ら、話を始めたことに驚くが、回りは黙ってその様子を聞いている


「ハッ!私、アルスが負傷したことにより、このノエルに救護され一時戦線を離脱しておりました。私の治療を終えたノエルが逃げていく魔導士をみつけた所、奇襲から倒し、グリモワール2冊を手に入れました」


「なるほど・・・そっちの・・・ノエルといったか、なぜその魔導士が敵だと分かった」


話はアルスさんがするという決まりで、僕は黙っていればいいと言われたのだが、僕の方に話を振られてしまった


「えっハッ!ま、魔導士はな、なぜ俺がこんな村を守るの、のに、尽力し、しなければボヤいておりました。その言葉か、から敵だと判断し、ました!」


緊張からか何度か噛みはしたが、伝わっていればいいのだが・・・


「ふん・・・その魔導士、2冊もグリモワールを持っていながらも・・・すぐに逃げ出さなかったのか不思議ではあるな・・・ギレルどうだ?」


「そうですな・・・2冊持ちというのは珍しいですが、そういう者もいるにはいますからな。4元素に神聖・・・恐らく別働隊の戦闘ではハウンドに回復魔法だけかけていた所でしょうか。それがウィロスがいたことにより、ハウンドが倒されてしまい、逃げるのが遅れたとかかと・・・」


ギレルと呼ばれたローブの老人が、そう進言すると・・・ハッとした顔になるワーズ指揮官


その様子に、王子も気が付くと


「どうしたワーズ?」


「ハッ!ギレル参謀の話を聞き思うところがあります。ギレル参謀の推測は恐らく正しいものかと、確かにハウンドは途中まで傷が治っている節が見受けられました。それはハウンドの治癒能力かと思っておりましたが、回復魔法だと思えば・・・合点がいきました。魔道兵がいないという虚偽の報告を・・・申し訳ございません」


僕とアルスを置いて、上の人達で話は進んでいく



推測とワーズ指揮官の報告をすり合わせていき結論がでたようだ


グリモワールを手に入れたという経緯は勝手に解釈されて王子たちは納得したようだが、僕らには都合がよく、僕は緊張していた為にあまり頭には入っていなかった


「すまない、待たせたな。手に入った経緯は分かった・・・それで、お前たちは魔道兵になりたいという事だな」


「ハッ!」


「ハッ!」


アルスさんに続いて、僕もここは返事をする


「ギレル、このものたちに適正があるかだけ調べてくれ」


「分かりました」


王子がそういうと、ギレルという老人は立ち上がる。その腰には赤黒いグリモワールがベルトに固定されていた


ギレルはこちらに歩み寄り、腰からグリモワールを手にすると


「お前たち、本を開け。そして儂の言葉に続いて詠唱をしろ」


そう言われ、僕らは急いでグリモワールを開くが・・・どこのページを開くのだろうか?


そう疑問に思っても、ギレルさんは待ってはくれない


「その源に感謝を”水よきたれ”」


詠唱とともに、魔法名を口にしたギレルの右手には30cmほどの水球が浮かぶ


「ほれ、唱えよ」


僕とアルスはその光景に、止まっていたが、ギレルさんに促され僕は同じように詠唱から魔法名を唱えた


「はい、その源に感謝を”水よきたれ”」


すると、ページが勝手にめくれて一番最初のページが開かれ、僕の右手にも同じように水球が浮かぶ


続けて隣のアルも魔法を唱え、右手に水球が浮かんでいた


僕らはお互いの顔を見合わせ、嬉しさからにやけあう


「・・・魔法の素質はあるか。」


パシャリと置いてある樽へと水球を捨てると


「お前らも、それを手ばなせ」


「・・・あのどうやるのですか?」


僕もどうやってこれを浮かせた状態から、切り離すのか分からなかった所でアルスさんが質問してくれて助かる


「魔力をきればよかろう・・・分かりそうなものだが・・・まぁいい、樽まで行き本を閉じろ」


僕らはギレルさんのいう通りに歩いて、捨てにいく


水球を捨てている時に


「陛下、ウィロスほどの逸材ではありませんが、魔道兵としては問題ないかと」


そんな風に王子へと報告をしているギレル


ウィロスってやはり優秀なんだと、僕らはそこで知った


僕らはまた元の位置に戻ると、王子から


「お主ら、アルス、ノエルを魔道兵に任命する。ギレル、紋章を」


「ハッ」


王子直々に魔道兵に任命されたのだ


ギレルは紋章と言われ、青というよりかはもう少し濃い、紺のような色合いの折りたたまれた布。その上に鉄で出来ているバッジが置かれた物を手渡してきた


それを受け取り


「これでお主らも、魔道兵だ。後の事はギレルに任せたぞ。これから期待しているからな」


「ハッ!」


「ハッ!」


王子からお言葉を頂くと、下がってよいとのことで一礼をすると、ギレルさんについてこいと言われて天幕をでることになったのだ


すでに僕らは嬉しさから、ニヤニヤするのを抑えきれないのだが、それでも僕らは我慢してギレルさんについていく

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