第5話 決裂
「死体は集められているみたいだな・・・」
「みんな・・・無事ならいいですね・・・」
村の中央には石碑があり、その隣にはハウンドと呼ばれる大型の魔物が5体横たわっていた
そのハウンドの肉をそぎ落とし、調理をしている兵士もいた
そこを横目にみながら、死体が集まる場所へと進んでいくと
「おい!アルス!!!いきてやがったか!」
僕らに前へと飛びこんでくる弓兵。スナイプがアルスに飛びついてきたのだ
「スナイプ!」
「お前!吹っ飛ばされて探してもみつからねーから・・心配しただろうが!」
少し涙を浮かべ、親友の生きている姿にスナイプは安堵しながらアルスを叩く
「いてーよ!・・・ノエルに救護されてな。その後は戦線を少し離脱し、軽く休んだら他の奴らを救護してたんだよ」
「くっそ、さぼってやがったのかよ!」
そうはスナイプは言うが、心底嬉しそうな顔だ
「おい、見てみろよ、この凹みをよ、後で鎧の調達もしなきゃならねーぜ」
「・・・かなりいってるな、お前体は大丈夫か?」
「あぁなんとかな。で、そっちはどうなんだ?さっき村に入って来たから様子がわからねー」
アルスが回りをきょろきょろ見ながらも、スナイプに問う。そうこの2人は三羽烏の中の2人、もう一人の存在が見当たらず、ゼーレ隊長達の姿も見えない
「・・・」
アルスの質問に黙り込むスナイプ、その様子を察するとマールさんは・・・嫌でも悪い予感がうかぶ
「おい、マールや隊長はどうした?」
「俺以外は・・・」
口に出すのが辛いのか、スナイプは顔を歪めてそう言った
「そうか・・・」
その一言だけで、アルスと僕は皆が死んだという事を察した
「・・・いや、俺はアルスとノエルが生き残ってくれていて心底安心したぜ」
「あぁ、俺もお前が生きていてくれてよかったよ」
「僕もです」
僕は二人の会話に初めて入り、その一言だけで再会の言葉を終わらせた
隊のメンバーを失くしたが、これもアルス達も初めてのことではないようだ。僕も初陣で隊長や同郷の幼馴染を失くした
戦争が続いていくという事は、この繰り返しなのだろう。それでもグリモワールを拾った今なら、そんな機会が少なくなればと願うばかりだ
「お前ら飯は食ったのか?食い放題だとよ、今腹に貯めて置かねーと、次いつこんなボーナスでるか分からねーぜ」
「あぁ、腹減ったぜ・・・ノエル、行くぞ・・・いやお前は先にその血を洗い流せよ」
「うっ・・・はい」
僕らは静かに村を歩き出したのだった
◇
別動隊、100人のうち死者26名、負傷者35名、残り39人となってはいたが、やはりウィロスのおかげでハウンドを殲滅することが出来たようだ
なんと5体のうち3体はウィロスが倒したと聞くと、ウィロスの事を何も知らないが、偶然運よく前の戦でグリモワールを手に入れれた幸運な人ではないようだ
偉そうにするだけはあると僕は、スナイプさんの話を聞きながら感心した
今日はこの村で一泊するという事で、矢倉、門で見張り番を立てるとの事だ
そこの3人と呼ばれ、僕とアルスさん、スナイプさんは深夜の門での見張りを言い渡されて、今に至る
「いい鎧見つかってよかったですね」
「あぁ、サイズもぴったりで前より軽くていいな」
「軽くて喜んでんじゃねーぞ。それは鉄が薄いってことだろ?」
「このぐらいでいいんだよ、矢さえ通さなければ十分だ」
雑談をしながら、今回の戦利品や味方の兵士からの拾い物などを話ていく
僕が殺した魔導士の他に、外で死んでいた兵士達からも装備を譲り受けた・・・というのは言い方がいいが、死体ははぎをした
アルスさん曰く、こういう事にも慣れておけという事なので、アルスさんとスナイプさんがはぎとるのを待つだけでなく
自分でもポケットを探り、死体から服を脱がし、装飾品を外しカバンの中を改めたりした
気分のいいものではないが、自分が生きていく為だと言い聞かせ、なるべく顔や傷を見ないようにやったのだ
ただ兵士の装備は支給された物が多数な為、僕とほぼ変わらない様子は得る物が少なかった。ただ数枚のお金と食料などだけ手に入れるのみとなったのだ
やはり殺した魔導士は装備が綺麗でいいものを持っていた為、結構な人物だったようだ
そして僕ら3人しか、この場にいないことからアルスはおもむろにグリモワールの話を始めた
「なぁスナイプ、グリモワールってどうやって読むか知ってるか?」
「あ?そんなの俺がしるわけないだろ」
「だよな~、お前俺より馬鹿だもんな・・・」
「はぁ?かわらねーだろ!つーか、グリモワールなんてお前には無縁なんだから関係ないだろ」
スナイプのその言葉に、アルスはふーと一息いれた。グリモワールを手に入れたことを親友に打ち明けるのだろう
「いいか、スナイプ騒がずに聞けよ」
いきなり声のトーンを落とし、真剣な顔つきで話し出すアルスにスナイプは少したじろぎながらも
「お、おい、どうしたよ。怖いんだけど」
「俺と・・・ノエルはグリモワールを手に入れた」
少しの溜めを作り、簡潔にアルスは伝え、カバンからグリモワールを取り出す
「う、うそだろ・・・」
大声を上げず、絶句したようにスナイプは呟くの横に、アルスは続ける
「俺は戦線離脱した時に、ノエルが逃げ出した魔導士を見つけて殺した。その魔導士がもう2冊持っていて、俺はその一冊を譲ってもらったんだよ」
「っ!?」
「まだ誰にも秘密にしておくつもりだったが、お前には先に知らせておこうと思ってよ」
僕らは本隊と合流するまでは、グリモワールを手にいれた事を黙っているつもりだった。これは僕とアルスさんで決めたことだったが、アルスさんはスナイプさんには先に知らせておきたかったようだ
なぜなら、僕らはこれからは魔道兵となり同じ戦場に立っていたとしても役割が変わってくる。スナイプさんは前線で矢面に立ち、僕らは後方からの攻撃になる為、部隊も変わってしまうからだ
アルスさんなりの誠意なのだろうと僕は思う
「・・・そうか」
ボソリとスナイプさんは呟く。それは寂しさがにじむ言葉
「あぁ・・・色々考えちまうよな、これからの事・・・。なぁお前、弓を捨てて俺を守る盾役になったりは」
アルスの提案に、スナイプは話を割っていく
「おい・・・俺をなめるなよ。そんな事すれば俺は一生お前の金魚の糞じゃねーか。それこそグリモワールを手に入れる機会さえなくなる」
「・・・悪い、忘れてくれ」
この2人がどういう志でこの戦争に臨んでいるのか、僕は知らない
この2人の会話は親友だが、ライバルのようだ。お互いに戦場では背中を預け合ってきたのだろう
アルスの提案は僕からしたら、安全が少しは補償されるなら嬉しい提案だが・・・お互いに肩を並べた親友からの言葉はスナイプにとっては侮辱されたような感覚なのだろう
そこか会話は途切れてしまったまま、交代の時間になると、スナイプは一人離れていった。アルスもそれを追うようなことはしない
「わりぃな巻き込んじまってよ」
「いえ・・・」
アルスはこういう事になるとは、なんとなくは分かっていたようだが、スナイプの身を案じて提案せずにはいられなかったそうだ
僕とアルスは2人、村の一軒屋でグリモワールの事を喋りながら眠りに着いたのだった
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