第4話 奪う者

僕はもう一度、殺した魔導士へと足を運んだ


そこには現実通り、魔導士の死体が血だまりの上に転がっている


「・・・こいつか、ひどくやったなお前」


「・・・必死だったので、怖くて死んでいるのかも確認できませんでした」


アルスは魔導士に近づくと


「そうか・・・おっこれだな。いいのか?俺に適正があると開いた時点で俺の物になるぞ?」


開いた時点か・・・あのグリモワールが馴染む感覚は開いたからなのだとアルスの言葉で分かった


「はい、いっぱい持ってると余計に人に狙われそうですから」


そうはいった物の、小さな黄金色の文字を浮かばせるグリモワールは腰のベルトと鎧の隙間に挟んでいた


「いいんだな。ノエル・・・命まで助けて貰って・・・グリモワールまで譲ってもらうなんて・・・どう恩返しすればいいんだよ」


「・・・そうですね・・・でも、まだアルスさんが魔法を使えると決まったわけではないので・・・」


「はぁ!?俺ぐらいならつかえるっつーの!」


僕の心配する言葉をよそに、アルスはグリモワールを魔導士から取ると、すぐさま開いた


僕と同じように、パラパラパラっと自動的にページがめくられている様子に


「おっ・・・なんかつながるような・・・感覚・・・」


おぉ・・・僕の危惧は意味のないもので、アルスもまた魔法が使える人間だったようだ


「なんだこれは・・・全くよめねーけど、ノエルどうやって魔法を発動したんだ?」


アルスは最初こそ嬉しそうに、ページをめくってはいたが徐々に顔は険しくなり、僕へと質問した


文字が読めない?じゃあ僕が読めているのは・・・転生者だから・・・?


「ええと・・・なんとなく昔冒険者が使っていたのを・・・適当に思い出しながらです・・・」


読めるという事が、不思議な現象な為そのまま話すには渋られた


適当すぎる返答をしてしまったが


「ふ~ん・・・グリモワールなんて分からない事だらけだからな・・・これこそ、教えを請わないと使えねーってことか」


それでもアルスも、グリモワールに知識が完璧にあるわけではないため、誤魔化せたみたいだ


「アルスさん、少しそのグリモワールみせてもらってもいいですか?」


「ん?あぁいいぜ。もう俺のだからな、お前が触っても大丈夫だろうな。俺もそっちの見せてくれよ」


アルスと交換をする形で、僕らはグリモワールを手にした


するとこちらのグリモワールの文字も2重で日本が浮かび上がる


うっ・・・これ結構気落ち悪い現象なんだよな・・・


それでもアルスさんが読めず、僕が読めるということは・・・そういう事なのだろう


この事は他に共通する人が現れるまで、秘密にしておこうと決めたのだった


「かぁーーー、こっちもまったくよめねー」


アルスはパタンと僕のグリモワールを閉じて、僕に渡してくる


僕は2冊のグリモワールを開くと、最初の数ページは同じ内容の魔法が記載されていた


”加熱”や”冷却”、”火よきたれ”に”水よきたれ”や”風よきたれ”など短い詠唱の物が羅列されていた


詠唱の短さ、魔法名から大した魔法では無さそうではある


僕が思考している間に、アルスは死んだ魔導士の体を漁っていた


「おっこいつ、グリモワールを2冊持ってただけはあり、結構金持ちだぜ?このナイフなんて銀製だ」


ベルトやネックレスに指輪などの金品を外し、使えそうな装備も外していく


「ノエル、こいつの靴どうだ?俺には小さいがお前は履けそうか?」


あまり死体からはぐのもいい気はしないが・・・この世界ではこれが普通なのだろう。全てを新品で揃えることなんて無理なのだ


身なりのいい敵を倒すと、その全てが戦利品となるようだ


アルスに靴を渡されるとすぐに履いてみる。少し足先に隙間はあるがこれからの自分の成長具合を考えると、いいように感じる


「結構いい感じです」


「おう、よかったな」


ベルトに着いた皮のウエストポーチなども、アルスは既につけている為、僕がつけることになる


「ノエル、ここの物・・・グリモワールを貰ってで・・・悪いが・・・この指輪もらってもいいか?」


「いいですよ、僕一人だったら恐らくグリモワール以外は置いてきたと思うので」


「そうか、一応みぐるみをはいだらこんなもんだな。服も上等そうなものきてはいるが・・・ボロボロだ」


「アハハハ・・・」


こういうのも含めて、いい装備をしていそうなやつはなるべく傷つけずに殺すんだろうなと思えてしまう


アルスが全ての装備を剥ぎ取り、装備品をならべ終えた後に、僕らは金品はアルスと山分けをし


装備品の物はほぼほぼ僕がもらい受け、ベルトにポーチ、斜め掛けの革のメッセンジャーバック、靴に下着は僕がもらい受けた。ベルトはグリモワールが備え付けれるものだったが、本体と合流するまではカバンに仕舞い隠すこととなったのだ


アルスはズボンだけ替えができてラッキーだと言っていた


装備品を余すことなく、手に入れた僕らだったが・・・村の制圧はどうなったのだろうと不意にアルスが思い出す


「そろそろ戻るか、村がどうなっているか・・・隊長やスナイプも心配だ」


グリモワールに装備が充実し僕らの本当の任務が少し飛んでいたのだ


時間にして、1時間も経ってはいないような感じだが、それでも1時間もあれば戦況は大きく変わっているだろう


僕らは林からでると、村から煙が上がっているが静かな様子は戦は終わりを告げていた


門から村を除くと、王国の兵士が座り休んでいる様子が見受けられた為、つい先ほどまで戦っていたような雰囲気だ


「・・・村は大丈夫そうだな。さぼってたわけじゃねーが・・・外に倒れている兵士達を救護して、仕事していた風に装うか」


「・・・はい、任せます」


アルスの機転で、最初に弓でやられた兵士を探し、息のある物を村の入り口へと運ぶ作業をすることにした


「お、おい・・・助けてくれ・・・あしが・・・」


即死した者はいるのはいるが、足や肩に刺さり痛みで動けなくなった者は多数いた


その人らは村の入り口付近まで運ぶ作業をしていると、村のほうでは食料の支給などが始まり始めたのだ


僕らも騎士から、救護ご苦労と褒めてもらい、一応はさぼりがバレずに済んだようだ


それに救護した人達からは、感謝の言葉をかけられた為、誰も僕らを疑う人はいなかった


ウィロス達も僕らをみつけても、人を運んでいる姿を見たのか、僕らが戦線を離脱しても仕事をしていたと思われたようで、アルスの機転が冴えわたっていた結果だった


「こんなもんか・・・後から仲間や敵の装備も確認しにいきたいが、まずはスナイプたちを探して飯だな」


「はい、結構疲れました・・・」


戦場では何もしていないが、魔導士を殺し、初めて魔法を使いアルスを命の危機から救った。それになんどもけが人を運び続けたので、精神的にも体力的にも疲れが出ている


だが、僕はスナイプさんやマールさんとはまだ付き合いが短いが、アルスさんは長い付き合いの2人が気がかりのようだ


一応、味方の救護をしたという大義名分を終わらせ、ぼくらは村の中央、戦場があった場所へと進んでいったのだった

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