宇宙人包囲網

 地球人としては現在のザクシー頼みの状況は好ましくない。

 次々に宇宙人が攻めてきて、ザクシーが退治する。そのために地球に駐留しているのだから、そこまでは良い。

 問題はザクシーが本当に負けてしまった場合だ。

 幸い今の所はザクシーが負けても復活したり、互角の相手が来ても追い払ったりしているが、もしもザクシーが本当に手も足も出ないような相手が現れたらどうなるだろうか?

 当然地球人はなす術無しである。

 故に地球人はザクシーに対して技術的な支援を頼みたいのだ。ザクシーを倒した相手を倒すのは無理でも、ザクシーの支援が出来れば悪い話では無いだろう?

 と言うのが地球人側の言い分だ。

 ザクシー側としては、結局地球人代表団というのもいつまでも作らないし、いくつかの国は秘密裏に航空機や潜水艦でザクシーの基地に接近しようとするし、自分の国だけ密かにザクシーに取り入ろうと様々な手段でメッセージを送ってくるし、コイツラに余計な知識を与えてもろくなことにはならないだろうという印象である。

 第三勢力の宇宙海賊ボリガーはというと、エイホにいくつか指令を下したが報告をして来ないので何をしているのかよくわかっていない。先日下した「ザクシーについて調べろ」という指令には割と乗り気だった。エイホにはもう一つ自らが課した使命があるが、進展はなさそうだ。

 そしてボリガーとエイホについては地球人もザクシーも気づいていない。

 

 そんな状況で日本の宇宙人対策本部が目をつけたのは民間の有志が開催準備を勧めていた宇宙人グッズマーケットイベント「うちゅケ」である。

 ザクシーの立ち回りがケレン味に溢れている事から日本の特撮を参考にしているのではないか、という藁にもすがるような根拠で「うちゅケ」に資金提供する代わりに会場に多数のカメラと宇宙人対策本部のスタッフを配置させてもらい、ザクシーと関連しそうな特撮作品を展示、AIによる行動的生体認証でザクシーと同じ歩き方、立ち方、様々な癖を含んだ動きをする人物を見つけようという目論見だ。

 第一回と言うことと宇宙人の存在が万人に好感を抱かれているわけではないこともあり、「うちゅケ」の規模もそこまで大きくはない。もしもザクシーが来れば高い確率でAIが見つけてくれるはずだ。

 概ねの準備が整った地下2階のイベントホールではイベントスタッフが入念に打ち合わせをしている。

 宇宙人対策本部もイベントを邪魔をしないようにコソコソとカメラの位置を確認してAIの行動的生体認証の精度をチェックしている。事前に何度もやってきた事だが、現地でも同じ様に機能するか最後のチェックである。

 入り口からイベントホールまで何台ものカメラが仕掛けられ、どのルートから来ても混雑しないようにイベントスタッフが誘導してくれる。宇宙人対策本部の作戦のことは主催者側のほんの数人しか知らない。

 今まで撮られた全てのザクシーの動画からデータを集めて人混み等で試してみたが、誤検知は無さそうだった。一応別の人間で認証するか試してみたところ見事に作動した。

 あとはザクシーが来るかどうかだが、十腰内は何故か「50%はあると思う」と言う。秋月やもっと偉い名前も顔も知らない役人達が「彼女がそう言うなら」という事で作戦は実行する事になったが、千村や他の隊員は半信半疑のままだ。

「本当に来ますかねえ? 50%なんてどういう根拠があるんです?」

 不安そうに千村が十腰内に話しかける。

「チムチム、来るか来ないかしかないんだから50%なんだよ。私が言うから説得力があるだけで、根拠なんか無いよ。ザクシーの気分しだいさ」

 十腰内はケケケと笑いながら長机に足を乗せてパイプ椅子でふんぞり返る。

「チムチムこそ本当は来ないほうが良いと思ってるでしょ?」

「ウッ……」

「怖いのぉー?」

「怖いというか、もしも怒らせたりしたら……」

「大丈夫大丈夫。話し合うだけだよ。向こうにとっても大事な情報がコッチにもある」

「地球人の持ってる情報なんてそんなに必要なんですかね?」

「そこは任せてよ」

 自信満々の十腰内の様子に、不安はもちろんあるが少しだけ頼もしさも覚える。

「待ってるよぉ〜、ザァクシィ〜〜んなぁばぁッ!」

 十腰内の奇声とガターンと大きな音がイベントホールに響き、注目が集まる。

 ふんぞり返りすぎて後ろに倒れた十腰内を助け起こしながら、やはり不安でたまらなくなる千村だった。


 ――――――――――――――――――


「おばあちゃん、明日ちょっと出かけてきてもいい?」

 エイホが片目で炊飯釜の水の量を確認しながら聞いた。

「いっといで。泊まりかい?」

 エイホのボロボロの服をツギハギで縫いながらおばあちゃんが聞くと、エイホは少し考えて

「晩御飯までには帰るつもり。なんか買い物して来たらいい?」

 と言った。

「バナナ」

「あいよー」

「このボロは着ていくのかい?」

「うーん、明日は着なーい。だから急がなくて良いからね」

「あいよー」

 釜を炊飯器に入れて蓋をし、30分後にスイッチを入れるためにキッチンタイマーをセット。

 ヨシッと頷いてラジカセの音量を少し上げる。

 明日のイベントの宣伝をしている。

「……うちゅケね」

 会場の場所をメモろうとしたが宣伝が終わったのでエイホは少し悲しそうな顔をした。

 

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