偽宇宙人
偽物が暴れて評判が落とされ、本物が現れて評判を回復する。
地球人の考えるヒーローにはこういう展開が良くあるのでザクシーも採用してみた。
これはただ単に信用を落としてから上げるだけでなく、疑っていた者達に罪悪感を抱かせてその後の疑念を抱きづらくする効果もあると踏んだのだ。
が、実際に偽物を暴れさせたら一瞬で偽物だとバレて軍隊にメチャメチャ攻撃された。まあ地球人の攻撃如きでは効かないが。
強化ボディザクシーそっくりの偽物を作ってちょっと目を釣り目にしただけなのにすぐにバレた。
まず戦う相手もいないのに突然ザクシーがA国のゴーストタウンに現れた時点で違和感があったかも知れない。
とりあえず予定を早めて本物が登場して偽物を倒す展開は完遂したが、疑った罪悪感を抱かせて疑念を抱きづらくするという効果は全く得られなかった。
「うーん、だからといって寸分違わぬ偽物をもう一度出すのはなあ。同じ展開を短いスパンで繰り返しても食傷気味になるよなあ」
悩みながらSNSの反応を見ると、偽物は偽物で割と人気が出ているようだ。しかし即バレしたのと瞬殺された事により雑魚キャラのイメージがついてしまったらしく、マヌケな姿のファンアートが増えている。
「もう少し強い敵を倒さないとイメージアップにならないんだよなあ」
ザクシーはどうしたものか、とネットサーフィンに取り掛かった。
――――――――――――――――――――
数日後、日本にて。
宇宙人対策本部のオフィスにはいつもの顔ぶれがそろっている。
「今回は北海道ですか」
「忙しいねザクシーも」
北海道は釧路市の山間僻地にザクシーが現れた。
前回はわかりやすい偽物が現れてから本物が登場したが、今回は見た目での判別は出来ない。
「本物かな?」
「現地隊員が撮影した画像を解析中です」
「パッと見では本物に見えるが、敵が来る前にザクシーが出て来るケースは今の所無いからな」
「あ、解析結果出ました。身長は約100メートル、本物との一致率100%です」
「100%って、逆になんか怪しく感じるな」
「いや解析しやすいポーズだからな。ずっと仁王立ちのまま動かない。何をしてるんだアレは?」
ザクシーは微動だにせず立ち続けている。
何かを見ているのか、聞いているのか、その表情からはうかがい知れない。
しばらくそうしていたが、突如ザクシーの正面に黒い球体が発生した。
ジジジ……と空間を焦がすような嫌な音がする。
「なんだ?」
モニターで中継を見ている隊員達にも緊張が走る。
黒い球体は黒い稲妻を放ちながら膨張し、ザクシーの身長と同じくらいの直径になった
やがれそれは収縮していき、人の形になった。
「黒いザクシー?」
水色を基調として黒いラインのザクシーに対し、現れたのは黒を基調として金色のラインの入った巨人。その目は赤く光っている。
山間部に佇む2体の巨人。
「なんか、夜のディスカウントストアによく居るカラーリングね」
十腰内がボソッと呟いた。
「……たしかに」
千村も同意した。
ブラックザクシーが手を前に出し、横に振った。
何かの攻撃かと思ったが、ブラックザクシーが赤いボロボロのマントのような物を装着する動作だったようだ。
それに応じてザクシーも同じ動作をし、黒いマントを纏った。
両者は腰を落とし、睨み合う。お互いの一挙手一投足に集中しているかのようだ。
瞬間、なんの前触れもなく両者の放ったローリングソバットがぶつかりあった。
轟音と衝撃波が発生し、周囲の木々が揺れる。
弾き飛ばしあった両者は再び睨み合うが、ザクシーが先にフワリと宙へ浮かんだ。
それを見てブラックザクシーも追いかけるように宙へ浮く。
空中で再び対峙して戦闘態勢を取る両者。
ザクシーは空手の息吹の様な動作をし、何もない場所を蹴って空中を走りだした。
「なんだあれ!」
モニターで見ている隊員達もどよめいた。
空間を踏みしめて高速で駆けるザクシーに、ブラックザクシーも左半身(はんみ)の構えを取りつつ右足で空間をドスンと踏みつけ、反動で右半身になると同時に右の拳を突き出した。
ザクシーは体をひねってそれを躱すが、凄まじい速度で打ち出されたブラックザクシーの拳から衝撃波が発生し空間を揺らす。ザクシーの体勢が崩れる。
それでもザクシーはひねった体を立て直しつつ遠心力を乗せた裏拳を繰り出した。
ブラックザクシーは突き出していた右手を即座に引いて裏拳を受け止めた。
直後に間髪入れず左の膝蹴りでザクシーの背中を狙う。
ザクシーは受け止められた裏拳を押し込み、咄嗟に抵抗したブラックザクシーの右腕を支点に後方へ宙返りして膝蹴りを躱す。
そのままブラックザクシーの頭上から謎の推進力で高速急降下し、手刀を振り下ろす。
ブラックザクシーは目にも止まらない速度の左後ろ回し蹴りで迎撃。
再びぶつかり合う攻撃に、ビリビリと空気が震える。
「すごい」
千村は思わず見入ってしまった。
「民間のヘリは近くにいないだろうな。巻き込まれたらひとたまりもないぞ」
秋月の言に周りの黒服が現場の隊員へ確認の連絡をいれる。
2体の巨人は距離を取り向かい合い、構えながらゆっくりと双方が左方向へ一歩一歩何かを確かめるように歩き出す。
「まるでアクション映画ね。ケレン味がありすぎる」
十腰内が小さく呟いた。
ザクシーとブラックザクシーは同時に両手を広げ、ゆっくりと体の前へ動かし、掌を相手へ向ける。
1歩前へ踏み込むと同時に掌から光線を発射した。
ザクシーの青い光線とブラックザクシーの赤い光線がぶつかり合い、激しく火花を散らしながら光線での押し合いが始まった。
2体の周囲でも散発的に火花や稲妻が走り、この場の空間自体がショートしているかのようだ。
押し合いは何度か攻守が入れ替わるように押し込まれれば押し返し、押し返せば押し込まれる。
やがてお互いに疲れが見え始め、光線が細くなり火花に混じって煙が上がりだした。
肩で息をしながらどちらが先に力尽きるかといった状況だが、ブラックザクシーが先に動いた。光線を撃つのを止めて前に飛んだ。
そのまま拳を叩きつけようと振りかぶる。
ザクシーは後ろへ反り返って拳を避けると同時にサマーソルトキックを繰り出した。
顎に迫るザクシーのつま先を首をひねって回避したブラックザクシーだが、頬をかすめた一撃によろめいた。
ザクシーも着地すると同時に膝をついた。
そのままの体勢でしばらく息を整えながら睨み合う。
やがて同時にゆっくりと立ち上がり、先に構えを解いたのはブラックザクシーだった。両手をだらりと下げて膝を伸ばす。
それを見てザクシーも棒立ちになる。
ブラックザクシーは目を光らせて睨みつけた後、上を向いて飛んでいった。
ザクシーはそれを目で追っていたが、やがてブラックザクシーが消えたのを見て、自らも風に溶けるように姿を消した。
「何だったんだ?」
「同族の揉め事か?」
今の戦いにどういう意味があったのかは地球人にはわからない。
「私達も向かうが、先行する現地調査斑にヒグマにも気をつけろと伝えてくれ。まあわかっているだろうが」
「はい」
秋月を先頭に千村や十腰内も部屋を出ていった。
――――――――――――――――――――
「どうだ? 姿が同じで色が黒いタイプの偽物は好きだろう地球人!」
早速SNSチェックをするザクシー。
予想通りネットではブラックザクシーは大人気だ。
今回は戦闘も力を入れて事前にプログラムしたアクションを演じてみたがこれも好評のようだ。
レイポーンの時に協力してくれた技術者に作ってもらったブラックザクシーには追加装備もあるので今後また活躍してもらおう、と鼻息荒く報告書を作るザクシーだが、
『ザクシーより黒い方が好き』
の書き込みが増えてきたので露骨に不機嫌になった。
当初掲げていた「偽物に騙されたことにより罪悪感を抱かせてその後ザクシーへの疑念を抱きづらくする」という目的は忘れた。
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