宇宙人VS霊

 なぜ宇宙人は複数の場所を同時に攻めてこないのか?とSNSの奴らがうるさかったので、ザクシーは全世界主要都市で同時に宇宙人退治ショーを見せてやった。

 次々に粗探しをしてくる地球人には困ったものだ、とため息をついて今日もネットサーフィン中だ。

 そしてその困った地球人達は今また新しい粗を見つけてあれこれ文句をつけだした。

『なぜ宇宙人は昼間にしか攻めてこないのか?』である。

 確かに全世界同時作戦も、夜間の国ではやらなかった。

 夜だとよく見えないので地球人へのアピールに適していないとか、夜間にパニックが起きると大きな被害が出るかもしれないとか、そういうアレがあるのだ。とザクシーは苛立った。

 今ザクシーが居る基地は夜。いつもと同じく静かだ。陸地から最も遠いポイント・ネモ海上では虫の声すら聞こえない。

 なにやら室内の空気が生ぬるく感じ、深呼吸して真上に息を吐いた。

「…………」

 ザクシーは薄暗い室内を見回した後に立ち上がり、物陰をチラッと見たり、歩みを止めて聞き耳を立てたり落ち着かない様子だ。

 視界に根源コンソールを起動して部屋の明かりを全部つけた。

 そして早足でユーシー星人への通信機へ向かい、呼びかけた。

「すまない、誰か」

『はい、どうしました?』

 若い女性のユーシー星人が応じた。

「あ、えと、その、特になんにもないんだが……」

『え?』

 ザクシーは何も考えて居なかったので口ごもってしまった。

「…………」

『ザクシー、何だか様子がおかしいです。何か問題が起きたなら力になりますので教えてください』

「いや、別にその、なんというか……」

 モゴモゴしているので女性オペレーターはモニターに顔を近づけて凝視して見た。

『あれ? 後ろにいるのは誰ですか?』

「はぁっふぁあ!!?」

 ザクシーは悲鳴を上げで首がもげそうな勢いで振り向いた。

『あ、すみません人形ですね、また増やしましたか?』

 確かにナイフアームやザクシーのフィギュアが飾ってある。

「はっ、ハァッ、ハァ……」

『…………ザクシー』

「…………はい」

『言ってください』

「……はい」

 ザクシーは息を整えて、地球のペットボトルのミネラルウォーターを飲んで、また息を整えて、喋りだした。

「地球の調査で、少し妙なモノがあってな、まだ調べきっていないのだがデータを送るので見てくれ。まだそちらで他のメンバーに共有はしないで欲しい」

『わかりました。不確定の情報ですね。ひとまず私だけ閲覧することにします』

「感謝する。データは送った」

『見てみます』

 彼女が送ったデータを見ている間、ザクシーはキョロキョロしながら額の汗を腕で拭ったりしている。

『霊、魂、悪霊……』

「そ、そうだ。そういうものがあるらしいのだ。私はそれが地球人の根源に類するものではないかと思い、目撃例や体験談や動画を漁って居たのだが」

『えぇ……』

「何だかどうにも、私の周りにも何か居るような気がしてならんのだ」

『何かが居れば警戒システムに引っかかる筈です。地球人にはそれをかいくぐる技術はありませ……』

「幽霊はそんなものには反応しないのだ!」

『!?』

 ザクシーが声を荒げたのでオペレーターは驚いた。常に冷静沈着で他人を見下したような態度を取っていたあのユーシー星人らしからぬ腹黒天才エージェントがそんな姿を見せるのは初めての事だった。

「あ、す、すまない」

『い、いえ、こちらこそなんか……』

「君、名前は?」

『カースです』

「えぇ……地球では呪いを意味する言葉じゃないか」

『えぇ……ノロイ? なんかすみません……?』

「いや…………すまない。変な事を言ったのは私の方だ。見ての通り今は少し、冷静ではないんだ。……気を悪くしないで欲しい」

『はい大丈夫です。なんというかむしろその』

 オドオドしているザクシーは可愛いな、とカースは思った。

「むしろ何だ?」

『何でもありません。続けましょう』

 カースは少し口角が上がっているのを手で隠した。

「霊の中にも悪霊と言うのが居て、それは何かを壊したとか、近づいてはいけないものに触ったとか、閉じ込めていたバリアシステムのような物をつい解除してしまったとか、誰かに恨みを買ったとか、そういった事が引き金となって襲って来るらしいのだ」

『なるほど。ザクシーも何かをしたのですか?』

「いや、心当たりは無いが、無くても来る事も多いらしい。それどころか見たり聞いたりしただけで伝播していく事すらハッ! カース、これを聞いた事で君にも影響が出なければいいんだが」

『宇宙空間を超えてこんな所まで来るとは思えませんので大丈夫です。それに、悪霊は接近してきたあと何をするんですか?』

「なんか……わからないが襲われたら死ぬ事が多い気がする」

『武器を所持しているのですか?』

「いや、それはあんまり聞いたことが無いが……」

『筋骨隆々だとか爪や牙が生えているとか?』

「いや、それも聞いたことが無い……」

『であれば恐れる事は無いかと。強化ボディを起動すれば万が一にも負ける事は……何ですか?』

 カースが話の途中で急に問いかけてきた。

「何ですか、とは?」

『いえ、今誰かの声がしたような……いえ、何でもありません気のせいでした』

「ッナーン!」

 奇声を発して両手を上げて振り返るザクシー。

 カースは通信を切って必死で笑いをこらえていたが、我慢できずにカワイイー!と叫んで笑いだした。

 ザクシーはというと突然通信が切れて更に動揺した。

「カース!? おい、どうした! カース? アレ? カース! おーい! 聞こえてるか?!」

 聞こえているが「ナーン!」と自分でザクシーのマネをして息ができなくなるくらい笑っているので応答できない。

 笑い疲れてから真顔で通信を返すと、ザクシーが心底ほっとした表情を見せたのでカースは今度は笑顔を隠せなかった。

『ザクシー、データベースに対抗手段が書いてありました。簡単な方法ですがコレをすれば安心です。間違いありません』

「本当か! 教えてくれ!」

『それは……』


 その後基地のあちこちに盛塩が置かれ、ザクシーの心の平穏はなんとか保たれたが、宇宙人が夜に攻めてくることは無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る