宇宙人の復活と泥棒

 ザクシーなりに調べた結果、地球人が喜ぶ復活の仕方は、パワーアップを伴う新形態での復活である。

 それはユーシー星人にもわかる。とてもかっこいいと思う。想像しただけで興奮する。

 強化ボディのデザインを変えるのは専門技師ではないザクシーでは時間がかかる。『根源』で共有された知識があるのでできなくは無いが、今は一刻を争う。地球人がこの基地へ向かっているからだ。

 すぐにでもザクシー復活劇を見せねばならない。

 色を変えるくらいなら簡単だが、ちょっと地味な気がする。

 何かないか、と部屋の中を見回してすぐに目についたのはフィギュアの棚だ。

 地球人が勝手に作ったフォームチェンジザクシーが置いてある。

「これだ! い、いやいや、コレをこのまま使うわけにはいかないか。日本でコレを買ったことがバレる可能性がある。しかしこう、基本形態を壊さずにパワーアップしてる感がいいなあコレ」

 フィギュアを手にとってマジマジと観察する。

 素の強化ボディに、胸から上にアーマーをつけて巨大な剣を持たせてある。

「アーマーに、武器……」

 そうつぶやいた時たまたま目の前にあったのは、この前倒したロボットと、地球人が勝手に作った強化型ナイフアームのフィギュアだ。

「……コレを、こことここを……」

 ブツブツ言いながら何か考えを巡らすザクシー。地球人が見たら青白い子供がおもちゃで遊んでいるように思うだろう。

「よし、一度ここで試してみて行けそうならサイズアップして出るぞ」


 

 その後デモンストレーションを何度かくりかえし、調整を重ねてパワーアップ形態案はまとまった。

「よし、行けるぞ! 我ながらこれはかなりカッコイイし熱いと思う。今行くぞ、見てくれ地球人!」

 興奮気味の笑顔で意気揚々と、ザクシーは転送装置を起動した。



 いつもの水色の光球になったザクシーはまず基地の上空へ移動し、接近中の地球人の船にも見えるように激しく光を放った。

「ほら、ザクシーは復活したぞ。競争は終わりだ。すごい光ってるだろ、危ないぞ。遠くから動画を撮ってくれ」

 各国の船はというと、基地への接近を止めその場で光球を観察している。

「よしよし、それでいい。次は、出番だレイポーン!」

『了解』

 通信を受けて、赤い光が上空に現れた。

 赤い光はやがてカラフルな光に代わり、だんだんと輪郭を現す。そしてレイポーンの姿になり、吠える。

 それは大量の割れたガラスを巨大な鍋の中でかき混ぜるような耳障りな咆哮だった。レイポーン作成者が作った鳴き声だ。

 それに答えるように、水色の光球もまばゆい光を放ちながら、稲妻を迸らせて人の姿に変わった。

 ザクシーの強化ボディにロボットの胸部パーツを鎧のように着込み、ナイフアームの腕部を改造して剣に変え両手に持ち、頭上で交差させているポーズをとっている。

 バリバリと雷光を纏いつつ、ブンと剣を振り腕を左右に広げる、宙に浮いたまま構える。

 それを見てレイポーンが棘を発射した。両腕と頭と背中から同時に大量の原色の棘が弧を描いて全方向からザクシーを襲う。

 ザクシーが身につけたロボットの胸部パーツがガシャンと開き、2つの砲塔から紫色の極太光線が放たれた。

 光線はレイポーンの棘をまとめて薙ぎ払い、レイポーン本体をも狙う。

 レイポーンは慌ててそれを避けるも、空中でバランスを崩す。

 その隙に目にも止まらぬ速さでザクシーが突進。交差した瞬間にレイポーンの左腕を切り飛ばす。

 レイポーンはひるまずに棘を再生させ即座に発射。と同時に自らも高速で突撃。

 棘が命中して前回のようにカラフルな爆煙をあげる。それを煙幕のように利用し、レイポーンの本体が突っ込んだ。轟音を響かせさらなる大爆発が起き、カラフルな煙が吹き飛ぶ。

 地球人は前回の悲劇を思い出しただろう。上半身を失ったザクシーの無残な姿を。

 が、今回は違った。

 ザクシーは無傷で、片手を前に出してレイポーンの突進を止めていた。

 再び胸部が開き、無数の紫の光線が機関銃のように放たれた。

 小爆発が連続してレイポーンがうめき声を上げて怯む。

 ザクシーは両手の剣を左右に構えて高速で回転。空気を切り裂く音を鳴らしつつ物理法則を無視した軌道を描いて空を駆け、レイポーンを縦に両断した。

 振り返ると同時に横にも一閃。

 4つになったレイポーンは一瞬の間をおいて爆散した。もちろんカラフルに。

「見た、地球人?」

 強化ボディ内のザクシーはやりきった顔で嬉しそうに地球人の船を見た。ズームアップするとちゃんと各国で撮影している。

「よし、作戦成功! レイポーン、協力感謝する!」

『やりがいのある仕事でした。必要があればまたいつでも協力します』

「ありがとう」

『では』

 通信終了。

 ザクシーはしばらく強化ボディのまま地球人の船を眺めていたが、近寄ってくる様子はないので頷いてから不可視モードに切り替え、基地へ帰った。


 帰還してしばらくすると、動画が世界に共有され、反応が見え始めた。

 救世主の復活劇を喜ぶ声で溢れている。

「よしよし、大成功だ。今まで倒した敵の装備を使うというのはやはり正解だったな。しかし剣はともかく、アーマーは動きにくいなあ。あんまり好みのデザインじゃないし

。新しい強化ボディを調整してもらってコイツはフィギュアに戻そう。今日のは急ごしらえのレアフォームということで」

 作戦の成功でごきげんなザクシーはテレビに映った自分の勇姿を眺めて満面の笑みを浮かべた。


 ――――――――――――――――――


 同じ映像を見ながら、エイホは激怒した。

「私のダイオーをバラして使ってる! 返せドロボー!」

「エイホうるさいよ」

「おばあちゃん、コイツなんなの! どこにいるの!?」

 台所で米を研いでいるおばあちゃんの背中に問いかけるエイホ。

「なんとかって宇宙人だよ。よくわかんないけどね。わたしゃついていけないよ」

「宇宙人? 宇宙人だったんだ……。そうだよね、そんなに急に地球人があんなの作れるようにならないよね。そういう事だったんだ」

 エイホはやっと相手の正体を知った。

「ん? ねー、じゃあおばあちゃんはなんで髪が青いの?」

 エイホは地球人の文化が大幅に変わったから髪が青いおばあちゃんが出現したのだと思っていた。

「じゃあってなんだい。染めてるからに決まってるだろ。アタシを宇宙人かなんかだと思ってんのかい。というかあんたも似たような色だろに。あんたは宇宙人かい?」

「ウゥッウ!……チガウヨ」

 突然図星を疲れてエイホは動揺した。

 米を研ぎ終わり、手を拭きながらおばあちゃんがエイホの前に歩いてくる。そして顔を近づけてマジマジとエイホの顔を見る。

「ナ、ナニ?」

 宇宙人だと疑われ始めた?

「エイホ、あんた……」

 訝しげに顔を覗き込むおばあちゃん。

「今日顔洗ってないね! 目やにがついてるよ!」

「ホアッ!?」

「洗っといで!」

「はーい!」

 エイホは慌てて洗面所へ走っていった。

 バタバタと足音が遠のく。

「…………」

 おばあちゃんは黙ってエイホのたてる生活音を聞いている。

 ポワン、ポワン、ポワン。

 と、エイホがいつも持っている通信機器が鳴った。

「エイホ、電話だよ!」

 おばあちゃんが呼びかける。

「はーい。今行く……電話ぁ!?」

 バタバタとエイホが慌てて戻ってくる。

 バッと通信機を握りしめてそのまま走って玄関でサンダルを履いて出ていった。

「……彼氏かね?」

 

 

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