宇宙人、苦戦する
前回の作戦から5日後、早くも2次作戦が開始された。
新たな巨大宇宙船が太平洋岩手県沖約300mの地点に現れ、巨大な生物を投下し去った。
その生物はというと、大きな黒いつり上がった目に、刃物のように鋭い長い両腕を持ち、口には牙が生えている。
サイズこそ違うが、紛れもなく最初に現れた宇宙人だった。使いまわしているのだから当然である。
ひとまずここではナイフアームと呼んでおく。
ナイフアームは水しぶきを上げて海へ着水。その身長はおよそ100m。ザクシーの強化ボディと同じだ。
苦戦して見せるために同じくらいのサイズのほうがやりやすいだろうと考えたのだ。
ナイフアームはゆっくりと歩を進め、トドヶ崎へ向かう。ザクシーが遠隔で動かしているが、特に目的地があるわけでは無い。戦う姿を見せたいだけだ。
「よし、地球人よ、早く見に来い。凶暴な宇宙人が再来し、上陸しようとしているぞ。そしてそれを阻止しようとして傷つきながら戦う私の勇姿を見るのだ」
ザクシー本人はポイントネモに居るが、物質転送技術によりいつでも駆けつけることが出来る。なるべくギリギリで現れたい。その方が効果的に恩を売ることが出来るはずだから。
が、本州最東端であるトドヶ崎、灯台はあるが無人な上に交通の便も良くないので、この時ここには誰も居なかった。
ナイフアームが上陸すれば断崖を壊してしまうので、その前にザクシーが止めに入りたい。地球への被害は出したくないのだ。美しい自然を守りつつ地球の情報を集める、それもまたザクシーの使命だ。
依然ゆっくりと歩を進めるナイフアーム。
しかしそれにしても…………。
「地球人来ないな」
場所が悪かった。万が一にも被害を出さないために都市部を避けたのだが、避けすぎた。誰も見ていないところで人形遊びをしても意味は無い。早く誰か来てくれ地球人。
もともとゆっくりと歩かせているナイフアームだが、上陸してしまいそうなのでたまに立ち止まったりしている。
そこへようやく自衛隊の戦闘機が編隊を組んで飛んできた。
ナイフアームを投下した宇宙船からわざと強力な電波を発した成果が出た。
「よし、今だ!」
満を持して、ザクシーは強化ボディでナイフアームの上空へ瞬間移動し、そこから高速でナイフアームへ飛び蹴りを浴びせた。
ザクシーの不意打ちによりナイフアームは激しい波しぶきを上げて転倒した。
ザクシーは間髪入れずに倒れているナイフアームへ殴りかかる。波しぶきがあがり、打撃音がこだまする。
2発3発とパンチを浴びせたところで、ナイフアームの反撃。鋭利な腕を逆袈裟斬りで振るう。
それを間一髪で躱すザクシー。自分で動かしているのだから避けるのは簡単である。
ザクシーは一度ナイフアームから離れ、腰を落としてファイティングポーズをとった。
自衛隊の戦闘機は上空を旋回している。警戒機もやって来た。おそらく映像も撮っている筈だ。
「よし、見ていろ地球人。私の苦戦を」
ナイフアームは腕を振り上げてザクシーへ飛びかかった。
「あぶねっ!」
ザクシーが屈んで躱す。
本当は当たるはずだったのだが、つい避けてしまった。自分で動かしているとはいえ、戦闘のプロではないザクシーにはあの長く鋭い腕は思ったよりも怖かったのだ。
強化ボディの耐久力ならこんな適当に作った人形の攻撃が当たったところでたいしたダメージは無いのだが、喧嘩もしたことがないザクシーは反射的に避けてしまう。
強化ボディも、もともとは身長1mしかないユーシー星人が作業用に開発した装備だ。こんな大きな相手と戦うのはユーシー史においてザクシーが初めてだ。戦うと言っても人形遊びなのだが。
「腕は一旦やめておいて、キックを受けよう」
ナイフアームは腕が届く距離でありながら前蹴りを繰り出した。
ザクシーの腹部に蹴りが命中。
一瞬動きを止めたザクシーだが、思い出したように腹を抑えて後ろへ小さく跳んだ。
「よし、こんな感じか?」
ナイフアームは追撃をせずザクシーを見つめている。ザクシーは自衛隊機をチラチラ見ては腹を擦る。
「もう少し苦戦して見せるか」
今度はザクシーが腕を高く上げてチョップを振り下ろした。
ナイフアームは身をかわしてチョップ避け、流れるようにザクシーの顔面へ肘打ちをした。
思わず顔を押さえて後ろへよろめくザクシーだが、ダメージは無い。
「よし、コレなら腕攻撃を受けても大丈夫そうだな」
ナイフアームは飛び上がって両手を広げ、左右同時にザクシーへ振り下ろす。
ザクシーはそれを上腕で食らい、苦しそうに片膝をついた。
「どうだ! 苦戦しているぞ! 見ているか地球人! 私は命をかけてお前たちを守るために戦っているぞ! 自作自演でここまで苦しい思いをするヤツが居るか?」
その頃、自衛隊警戒機内では、
「水色の巨人、なんかこっち見てます!」
「ザクシーだったか。我々が気になって戦えないのかも知れない」
「よし、もっと離れるぞ」
というやり取りがされている。
そして去っていく自衛隊機。
「あれ? どこへ行くんだ地球人! まだ私が戦っているだろう! なぜ帰る!? おい待て!」
去っていく自衛隊機を棒立ちで見ているザクシーとナイフアーム。
「はぁ……よく分からんな地球人」
ザクシーはおもむろに掌をナイフアームへ向け、そこから水色の光線を発射した。
ナイフアーム爆散。
破片は地球人に回収されないようにすべて水色の光の膜で包み込み、球状に凝縮してザクシーの手に握られた。
「帰るか」
天を仰ぎ、バンザイするようなポーズで空へ飛んでいくザクシー。ある程度飛んだところで瞬間移動し、ポイントネモ基地へ戻った。
同時に強化ボディを解除し、基地内で地球人の反応を調べる事にする。
「ちゃんと見てくれたのか、地球人?」
そう呟いて不安そうにうなだれた。
翌日、地球人の反応は……
「また守ってくれた正義のヒーロー」
「自衛隊機を巻き込まないようにしていた」
「敵は連絡隊が会った宇宙人と同じ姿だったらしい」
「強い」「かっこいい」「ビーム出した」
主にこんな感じだったが、ネットでは議論が巻き起こっていた。
「なぜ前回は軍団だったのに今回は一体だけなのか」
「様子見かつ、ザクシー狙いのタイマン特化型だった?」
「なぜ同時に複数箇所を襲ってこないのか」
「戦力の集中だろ」
「それにしては弱くないか?」
「なぜ岩手県に?」
「岩手県に宇宙人が狙う何かがある?」
「進路上には動物園があるぞ」
「なぜわざわざ海から来るのか。最初から目的地に降りればいいのに」
「それな」
「倒した怪獣を持ち帰ったのは何故?」
「怪獣の死骸が有害物質だから?」
等々。
「いちいち細かい所をついてくる。助けてくれてありがとう、いつまでも地球にいてね、となぜ言えない? なぜそんなにまとまりがない? 『根源』か複数あるのか? まだまだわからない事だらけだ」
頭を抱えてうずくまる。
「だが進展もあった。前回よりグル説は減ったぞ。作戦は成功だ。長期滞在し調査するためにも、作戦は定期的に行う必要があるが、余計な疑念を抱かれないように一層の練り込みが必要だな。複数箇所同時作戦と、怪獣が有害物質を含んでいる事にするのと、被害が出なそうな広くてなおかつそれなりに目撃者が居そうな陸地探しと……」
前途多難である。地球の調査どころでは無いが、ザクシーのマッチポンプはまだ始まったばかりだ。
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