地球人、すぐ疑う
ひとまず作戦は完了。後は計画通りに地球人に恩を売れたかどうかだ。
ザクシーは光球形態から100メートルの巨人形態へ姿を変えた。体色はザクシーと同じ水色で、銀色と黒のラインが入ったシンプルな人型だ。浮遊したままゆっくりと音もなく地球人の船へと接近する。攻撃される事は無いと思いたいが、どうにもここまで予想と違う行動が多い。
そしてその地球人の行動はというと、なにやら慌ただしく動いている。まだパニック状態のようだ。悪い宇宙人は退治してやったというのに、好戦的な割に臆病な種族なのかもしれない。
「ん、なんだ?」
地球人の中では小さめの、ここまで特に目立った行動がなかった個体がこちらに向かって大きな声を出している。興奮状態に見える。威嚇行動だろうか。ユーシーに居るギギヌンも小型の方がよく吠える。
「ニ、ゲ、テ?」
さっきまでは翻訳されていたのだが、どうやら統一言語ではない言葉のようだ。すぐに装置によって候補が思考内に浮かび上がる。日本語と言う言語で、意味は退避しろという事らしい。どうやら別の地球人の遠距離攻撃兵器が飛んでくるらしい。
そんな物は脅威でも何でもないが、ザクシーが興味を持ったのは大声を出している個体だ。兵器から自分を守れと言うのではなく、逃げろと言うのか。地球人が私を心配しているのか。
「フフフ、なかなかかわいい一面もあるじゃないか、地球人」
独り言を言いながら、ザクシーはこちらに飛んでくるミサイルを知覚した。地球人の船がソレを迎撃するかも知れないがその前に、もう少し力を見せつけておこう。
ザクシーの強化ボディがミサイルの方向に腕を伸ばし―――
「機能停止」
巨人の内部でザクシーがそう呟くと数キロ先に迫っていたミサイルは空中でピタッと静止し、
「一応もらっておくか」
そう言って拳を軽く握ると音もなく消えた。
地球人達はしばらく騒いでいたが、やがて何が起きたのか理解したのか呆然と立ち尽くした。あの小さいヤツもへたり込んでいる。
「ザクシーだ。作戦は完了。ついでに地球人の兵器も転送しておいた」
ザクシーが母船へ通信すると、
『すぐに解析する。作戦の手応えはどうだ?』
とすぐに返答が来た。
「予想と違う事も多く時間もかかったが」
視線を船でへたり込んでいる小さいヤツに向ける。おそらく泣いている。目から体液を出すのはユーシー星人と同じだ。
「フフッ、地球人への印象も多少変わってきたぞ。思ったより分かり合えるかもしれない」
謎の宇宙人を心配してくれるような人の良さと、すぐに騙されそうなチョロさを感じ取りザクシーは微笑んだ。
『そうか。だがおまえが転送した地球人の兵器を解析したが』
「ん?」
『もしも正常に作動していたら、その場では耐えたとしてもお前は細胞を破壊されて死んでいただろう。それと、こんな物を多様すれば地球の環境そのものが破壊されて我々はもちろん地球人ですら住めない星になるだろうな』
「…………マジで?」
『地球人の調査はこれからも慎重に頼む。星の環境を壊しかねない兵器があるのならば、環境を元に戻す技術もあるのかも知れぬ。ユーシー星再生への道筋になるかもしれん。お前の頭脳ならばきっと出来ると信じている』
「ああ……任せておけ……」
通信終了。
気を緩めてはいけない。地球人はやはり危険だ。
ザクシーは念の為に真の姿は隠した巨人形態のまま、海面にしゃがむような形で地球人の船の真横へついた。
なるべく威厳のある声で、ゆっくりと、感情を感じさせないように。
「地球の皆さん、私はザクシー。遥か遠い星から――――」
――――――――――――――――――――――
一夜明け、ザクシーはポイント・ネモの海上に築いた簡易拠点の通信機器で地球人の反応を調査している。予め準備しておいた設備を転送してもらったのだ。
昨日ザクシーが倒した悪い宇宙人は宇宙の各地で悪いことをしている連中で、また攻めてくるかも知れないのでザクシーが駐在して地球を守る、と通達した。
駐在許可を求めるとまた長々と返事を待たされそうなので、これは一方的に伝えた。
船にいた地球人達は反対しなかったが、この場所は地球人にとっては遠すぎるらしいので、会う用事がある場合は太平洋のアリューシャン列島とミッドウェイ諸島の真ん中あたりまで出向く事にした。
ザクシーは親切な正義の宇宙人を演じられたと自負しているが、さて地球人の反応はどうだろうか。
世界中のテレビやインターネットの情報を解析しているのたが、大部分は宇宙からの侵略者の出現と、それを阻止した光の巨人の動画を繰り返し放送している。
正義の味方への賞賛や、早くもグッズを作って喜んでいる地球人の動画を見てザクシーも目を細めて満足気に頷いた。
が、一方では早くも疑い始めている者も居る。
「タイミングが良すぎる」
「宇宙船が弱すぎる」
「宇宙船群は一発も撃たずに無抵抗でやられている。グルなのでは?」
「核ミサイルをどこへやったのか」
「なんか怪しい」
等の意見が少なからず見られた。
「なんという疑い深い生き物なのだコイツらは! 普通そんな事をこのスピードで思いつくか? ユーシーでこんな事を思いついたのは私くらいのものだと言うのに、もしかして私をも超えるとてつもない知略に長けた種族なのか?」
地球人からすればユーシー星人が疑う事を知らなすぎるだけなのだが、ザクシーは戦慄した。
早急に次の手を打たなければならない。
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