宇宙人、作戦開始する
地球人達が急に揉め始めたのでザクシーは大いに困った。
彼らの行動がまるで予測出来ない。こんなにもユーシー星人と違うのかと衝撃を受けている。
なぜこんなまとまりの無い生き物がここまで繁栄できているのだろう?
とにかく、今は計画を既定路線に戻さなくてはならない。何やら勝手に殴り合いを始めた地球人はひとまず放っておいて、海上に浮かべておいたハリボテ宇宙船軍団による威嚇を開始する。
――――――――――――――――――――
「宇宙人が姿を消しました!」
その自衛隊員の声は大きくはなかったが、騒ぎの中の一瞬のタイミングを縫って皆の耳に届いた。
日本語が理解できる者達は先程まで宇宙人が浮いていた場所に向けられ、何人かは急いで船の縁まで行って下を覗き、振り返って首を振った。
そして、自然と全員の視線は上空に浮かぶ宇宙船団に集まる。
空を埋め尽くす数万の宇宙船団が音もなく佇んでいる。雲は流れるのに宇宙船は微動だにせず、まるで空間に固定されているかのようだ。
やがて地球人の注目が集まるのを待っていたかのように、宇宙船団からゴゴン……ゴゴン……と不気味な重低音を発せられ始めた。
「なんの音だ」
A国長官がつぶやいた。
「わかるわけ無いだろ」
B国副部長が憎まれ口を叩く。
「お前に聞いたのでは無い、黙っていろ抜け駆けデブ」
「なんだとハゲジジイが!」
誰ももう彼らの争いを止めようとはしない。そんな事をしている場合ではないとわかっている。
宇宙船団から聞こえる音が何をしている音なのかはすぐに判明した。
「ああ……そんな」
千村仁美がかすれた声を絞り出す。
宇宙船団の砲らしきものがこちらを狙い始めている。
ほぼ全員が悲鳴を上げてパニックに陥った。船から飛び降りようとする者を自衛隊員が押しとどめる。
胸の前で十字を切り、宇宙船を睨むA国長官。
B国副部長は母国語で通信機器に何かを叫んでいる。
自衛隊の一人が宇宙船を凝視しつつ、
「狙いは僅かに逸れている。おそらく威嚇射撃が来る。誰も落とすな!」
と指示した。
それを受けて自衛隊員達が学者や大臣ら乗員へ駆け寄り、手際よく金具を装着し、転落防止ワイヤーにつなげた上で自分の身体を盾にする形で覆い被さった。
砲口からぼんやりと赤い光が見え始め、それが大きく色濃くなっていくのと同時にブーン……と、いかにもエネルギーを溜めていますよといった音が段階的に高くなっていくのが聞こえる。
「来る!」
と誰もが思った瞬間、一つの宇宙船から激しい衝突音と共に何かが落ちたように見えた。が、そうではない。
何かが宇宙船を貫いて落ちてきたのだ。
真ん中に大きな穴を開けられた宇宙船は、墜落もせずに、火花を撒き散らして3秒程後に爆発した。
轟音で空気が震える。
その場の地球人が大爆発する宇宙船を見ている間に、何かが縦横無尽に飛び回り次々に宇宙船団を貫いて行く。
「何だ!?」
「飛翔する青い発光体を確認。無軌道に宇宙船を攻撃しています。数は1。速度は測定中。詳細不明」
次々に穴を開けられて爆発していく宇宙船。破壊音と爆発音がとめどなく響いてくる。乗員たちも大声でないと会話ができない。
「味方か!?」
「A国の新兵器か?」
「いや、我が国にあんな物は……」
そんな事を言い合っている間に、空を埋め尽くすほどいた宇宙船の数は、爆炎で正確には見えないがすでに半分ほどになっている。そして現在進行形で減り続けている。
「測定完了。速度約マッハ5。詳細は依然不明」
「マッハ5!? にしては静かに飛ぶな」
「ᖴ-15はもっと……」
自衛隊員も興奮を隠せない様子で話し始めた。
「信じられない。O国を埋め尽くすほどの大艦隊だったのに、圧倒的じゃないか。アレはなんなんだ」
口を開けて見ているしかできなかった地球人達も少しずつ落ち着きを取り戻している。
花火大会の最高潮時のように絶え間ない爆発音がやがて収まり、煙が晴れる。
「お……終わったのか?」
「次は我々を狙っているんじゃあるまいな」
少し安堵した様子の各国大臣達だが、B国副部長は落ち着き無く視線を泳がせたり汗を拭いたりしている。
「おいどうした、どうやら我々はひとまず助かるぞ?」
A国長官が肩を組んで笑いかける。
「あ、ああ、そうだな。よ、よかった」
それでも様子がおかしいのでA国長官も訝しんだ。
「お前なに……」
問いただそうとした時、自衛隊員の一人が叫んだ。
「N国潜水艦が8分前にミサイルを発射! 目標宇宙船、弾着5分!」
「は?」
日本語がわかる者の表情が凍りついた。
通訳がA国長官の耳元にヒソヒソと話しかけると、長官は怒りの表情でB国副部長を殴りつけた。体重の乗った右フックはダウンを奪う事に成功した。
「何をする! N国がやった事だろう!」
「後ろにいるのはいつもお前らだろうが! さっきの通信機器だな! この✕✕✕が!」
また始まった争いを無視し、自衛隊員が叫ぶ。
「全速で退避!」
それを他の隊員が復唱し、すぐに動き出した。
「三佐! 発光体が!」
別の隊員が叫んだ。
宇宙船を片付けた青い発光体が動きを止め、自衛隊の艦へゆっくりと近づいて来た。
光が弱まり、ぼんやりとシルエットが見えてくる。
「巨人……?」
それは大きな人型となり、宙に浮いてこちらを見ている。
その姿がはっきりと見える前に、千村仁美はハッとして巨人へ向かって叫んだ。
「いけない、ミサイルが来る!」
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