地球人、勝手にもめる
ザクシーはその後さらに10日待つことになったが、ようやく一隻の船が海からやって来た。なぜ通信ではなく直接来たのかはわからない。
ユーシー母船の近くに漂っていた鉱物等で精巧に作った、いかにも凶悪そうな宇宙人人形を使って地球人に対面したが、そこでさらに予定が狂った。
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千村仁美三等書記官は泣いた。
本当に嫌だったのに宇宙人への連絡係にさせられたのだ。
そんな大事な役目はもっとエライ人が行くべきなのに。年老いた親の介護だとか、普段聞いたこともない理由で固辞した上司。猫を飼ってるからと固辞した先輩。絶対に許さない。
あいつらのせいで千村仁美は今、自衛隊の大きな船に乗り、何日もかけてよくわからない遠い海にやって来て、恐ろしい宇宙人と対峙しているのだ。数十名の各国の政治家や学者、自衛隊員と共に。
宇宙人は当たり前のように立体映像で連絡隊の乗ってきた輸送艦の約10メートル前に浮かんでいる。
全体的に少し透けているが、肌の色は青灰色で、立体映像が拡縮無しなら身長は約2メートル。つり上がった大きな黒い双眸に白目は無い。両手は何故か刃物のように鋭く長い。なんと恐ろしい姿か。衣服らしきものは着ていないが、この姿がスーツのようなものかも知れない。中からもっと恐ろしいグロテスクな化物が出てくる想像をして鳥肌が立つ。
千村仁美は、昔テレビで見たチュパカブラの想像図に似ていると思った。こんな化物に「地球代表を決めるまで待ってくれ」なんて話が通じるのか? そんな事を伝えた途端にあの刃物のような両手で全員バッサリやられてしまうのでは?
連絡隊の中では1番身分の高いA国の年老いた国務長官が、携えて来たケースを開け書類やメモリカードを見せた。
「どの媒体で渡せばよいかわからないので複数持ってきましたが、内容はいずれも同じです」
国務長官がそう言うと、言葉は通じたのかケースの中身だけが音もなく浮かび上がり、宇宙人の目の前にゆっくりと飛んでいった。
平然と起こる怪現象に連絡隊はどよめいた。
宇宙人は書類とメモリーカードを顔の前に浮かべ、目から何らかの光を出して解析を始めた。
千村仁美は宇宙人を刺激しないように声もなく泣きながら(生きて帰れたら猫を飼おう)と思った。
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ザクシーは宇宙人人形を通じて地球人からの返答を確認した。
宣戦布告か、和平交渉か、どちらかを想定していたのだが、地球人が持ってきた返答は要約すると、
『これから地球人の代表を決めるからまだ返答は出来ない。待ってくれ。あとこのメッセージを持ってきたのはただの連絡係であり特別な権限は有していない』
であった。
「どういう事だ! 意味がわからん! そんな事は要求していない! 代表を決めていなくとも『根源』に従った返答をすれば良いだろう! 恐ろしい侵略者がもう目の前に来ているのだぞ! 何を悠長に『待ってくれ』だと!? 既に地球時間で20日は待たせているのにか! ただの連絡係を寄越してどうする! 権限もないのならコチラからさらなる要求をした場合どうするのだ!? また20日待たせるつもりか?」
ザクシーは激怒した。
予定通り暴れてやろうとしたところで、地球人が騒ぎ出した。
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B国の外交部副部長が突然前に歩み出た。
「地球代表が決まるまでの間、ぜひ我が国へお越しください! 必要なものがあれば用意致します!」
「貴様何を!」
A国長官がB国外交部副部長の後ろから掴みかかった。
自衛隊員たちも駆け寄ってB国副部長を止めようとする。
「離せ! 我が国が地球の為に危険を請け負ってやると言うのだぞ!」
B国外交部副部長が取り押さえられながら暴れる。
「黙れ! 抜け駆けして宇宙人に取り入ろうと言う魂胆だろうが!」
F国外務大臣が胸ぐらを掴む。
「こんな奴らの国はダメです! 我が国へお越しください!」
C国大臣。
「いや我が国へ!」
K国。
各国の要人達が騒ぎ出し、事態は混乱を極めた。
自衛隊員達も混乱しつつとりあえず全員を止めようとしている。
学者たちはため息をついてそれを眺めたり、面白がって動画を撮ったりしている。
書記官達も動画を撮ったり急いでメモを取ったり高速でタブレットに何か打ち込んだりしている。
「あぁ、もうおしまいだ」
千村仁美は膝をついてすすり泣いた。
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