地球人、来ず
ユーシーと言う星から来たのだからユーシー星人と呼ぶ事にする。姿形は地球人によく似ているが、サイズが小さい。成人でも1メートルといったところだろう。
地球に似たユーシー星が天体衝突により滅ぶ事は遥か昔からわかっていた。
ユーシー星人は争うことをしない。彼らには全ユーシー星人が共有し『根源』と呼ぶ全体意思の様な感覚が、生まれつき備わっていた。故に全体主義的であり、種族としての進化を全員一丸となって邁進する超共同体とでも言うべき種族だ。
驚異的な速度で進化・発展し、科学力のみならず『根源』を活用した地球には無い技術により、星が滅ぶ前に大勢が宇宙へ避難する事が出来た。
その後ユーシー星を観察し修復を試みる者達と、資源を探しに宇宙を旅する者達等、6つの集団に別れた。そのうちの1つが地球へやって来たのだ。
彼らにとっても、地球人は自分達以外の初めて見つけた生命体だったので、そのコンタクトには慎重だった。少しずつ地球に近づき、ある程度観察できるところまで来たが、地球人がユーシー星人に気づいた様子はなかった。それどころか、どうやら地球人同士で絶え間なく争っているようだった。
ユーシー星人からすれば、なぜそんな事をするのか理解できない。『根源』により種族が1つになり同じ目的へ向かって生きている彼らからすれば、地球人同士で争う事になんのメリットがあるのか想像もつかないのだ。さらには地球人が『根源』を持たないなどと考えもしなかった。いや『根源』を持たない知的生命体がいるとは思っていないのだ。
ユーシー星人からすれば、できればこんな好戦的な種族とは関わりたくはない。しかし、やっと見つけた生命体とユーシー星に似た星を見過ごすわけには行かない。ユーシー星には無い技術や資源があるかも知れない。惑星を自分たちが住める環境にする力があるかも知れない。ちょっとだけお邪魔させてもらい、調査させて欲しい。技術交換も出来れば嬉しいが、好戦的な地球人には下手に技術を与えると危険だ。程よい距離感で、地球人の争いに巻き込まれることなく地球へ逗留したい。どうすればそんな事が出来るだろうか?
制圧して奪うなどという意見は出ない。ユーシー星人は争いをしない。『根源』により自動的に分かり合える彼らは争う必要が無かったからだ。
数年の観察の末に1人の若き天才ユーシー星人がひらめいた。
「まず侵略者を装い脅威を与える。反撃して来るだろうが、地球人同士の争いを見る限り大したことはない。だが地球人を滅ぼしたいわけではない。与えるのは見せかけの脅威だ」
「どういう事だザクシー?」
太陽系内に潜伏しているユーシー星人の宇宙船。その艦橋にあたる部屋にユーシー星人の指導者達が集まっている。巨大なモニターに向けて扇形に並んだ座席。100人ほどが席についている。
年老いたユーシー星人にザクシーと呼ばれた若者はモニターに映る地球を無表情で見つめている。青白い光に照らされたその顔は地球人とよく似ている。やや目の形が丸く、頭髪は水色がかった銀髪。肌の色は白黒黄緑青など様々で、ザクシーは水色の肌だ。
「なるべく怖ろしげに見える船を沢山作る。おもちゃのようなものでいい。そこらの小惑星等を使って形だけ整えれば十分だ。ソレを転送し巨大化させて見せる。彼らは突然現れた侵略者に驚くだろう。出現位置が陸地だと万が一撃墜された時におもちゃだとバレるし、撃墜時に地上に被害が出るかも知れない。それは我々としても本意ではない。そうだな、このあたりの……」
ザクシーは指から光を発して巨大モニターの地球を指差して続ける。
「すべての陸地から1番離れたところに行こう。そこから彼らの使っている通信で地球全体へ降伏勧告を送る。恐らくすぐに攻撃してくるだろう。そこでおもちゃ船を暴れさせる。なるべく派手に、だが被害は出ないように。まあ地球人の兵器では大したダメージはないはずだ。攻撃が効かず困り果てたところへ、私が強化ボディを使っておもちゃの侵略者を退治する。危機を救った恩人となった私は地球を防衛するためにしばらく地球へ留まる。そして地球の調査を続ける。地球人から感謝されつつ、な」
ザクシーの周囲に居たユーシー星人達にどよめきが走った。
「ううむ、自作自演か。……お前はよくもそんな悪知恵が浮かぶものだな。ユーシー史上最悪の悪魔かも知れぬ」
ザクシーは表情を変えぬまま、モニターの地球に手を伸ばす。
「だが今は悪魔の奸計すら必要なのだ。他に良い手があるか?」
誰も何も言わなかった。彼らからしても地球人へのコンタクトは怖いのだ。そして沈黙を持ってザクシー案の肯定とした。
「この作戦はここに居る者達だけの極秘にしよう。人数が増えれば『根源』にも影響が出る。もしも作戦成功後にユーシーが地球へ降りられるとしても、地球人にこの作戦がバレてはいけない。絶対に」
ユーシー星人の指導者たちはザクシーの作戦に恐れを抱きながらも、覚悟を決めたように頷きあった。
そして数カ月の準備の後に作戦は決行された。
が、早くも予定と違う展開になった。
降伏勧告を送ったのに攻撃も返答来ないのだ。
「なぜだ? ここにいる事もわかっているはずだ。メッセージもキチンと届いたはずだ。言語も翻訳して、地球人に合わせた複数の方法で伝えたのだから」
ハリボテ戦艦の中で、ザクシーは一人焦りを感じ始めた。
ここに船を浮かべておくのも限界がある。地球時間で10日は経った筈だ。いくら何でも遅すぎるのではないか?
ユーシー母船からの報告によれば、各地で起きていた地球人同士の戦闘は休止して居るようだが、かと言ってこちらに攻撃してくるわけでもない。
「何を考えている地球人……」
ザクシーの顔に初めて苦々しい表情が浮かんだ。
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