第7話 魔族幹部との決戦

 数週間後。


 私は魔導図書館の事務の仕事に追われていた。新書の登録に倉庫行きの本の整理、セカンドカテゴリーの魔導書の管理。サードカテゴリーの魔導書の開発日記。


 多種多様な仕事をこなしていた。


「ご主人様、お疲れのようですね」


 ナンバー3591が名前のセカンドカテゴリーの魔導書に私は励まされる。この図書館はロリだらけで居心地はいいが、なんせ館長に成る為の仕事だ、簡単に言えばキツイのである。


「あ、ぁ、気遣い、ありがとう」


 私は仮眠を取ろうと自室に入ろうとした瞬間にルビー館長から声をかけられる。


「任務です、王都の地下墓地に魔族の痕跡が有るとの情報です。調査をお願いします」


 いいいいい、地下墓地!?行きたくない。と言うか、休みたい。


 うん?


「グオー、グオー」


 自室の中からいびきが聞こえる。ヨルヒの声だ。ここは叩き起こして任務だ。


 今回、アリシアは体調不良の為にお休み。やはり、サードカテゴリーの魔導書は研究段階である。そして、私達が魔導図書館の門の前まで行くと王都治安維持委員会のカナルが待っていた。


「王都での事件だ、同然、私も同行する」


 さいですか……。


 せっかく、街に出るのだ。旅の商人サンダースさんを探そう。運よく王都に居ればいいが。


 ここは地下墓地に行く前に出店街に向かう事にした。しかし、出店街に行ったがサンダースさんには会えず。


 ヨルヒが焼き鳥を頬張り。


「お姉さま、美味しいですよ」

「あぁ、少し、私も食べよう」


 ヨルヒにすすめられて、焼き鳥を口にするが、何時もの様に美味しくない。やはり、これから地下墓地に行くのだ、気分がいい訳がない。


 しかしだ、せめて、サンダースさんが何処にいるか聞こう。出店の店主によると、王都には居るらしい。


 地下墓地の帰りにもう一度寄ろう。


 そして地下墓地の入口がある教会に向かう事にした。カナルに案内されて教会の建物に入る。そこから地下に通じ階段を降りて行く。私達が地下墓地に着くとそこは死の世界であった。人々の骨が山の様に集められているのが印象的であった。その地下通路を進むと大きなホールに出る。


「来たか魔術書よ」


 現れたのは空中に浮かぶ黒いローブに白い仮面姿の骸骨である。


「我の眠りが覚めたと言う事は魔王シェパードが復活するのか……」

「魔族よ、ここでもう一度滅ぶがいい」


 カナルが叫ぶ。相変わらず威勢だけはいい。しかし、戦うのは私とヨルヒだ。


「ほぅーこの我と戦うとな」


 ヨルヒがファーストカテゴリーの魔導書だと知っていてあの余裕……。


 この前の魔族とは格が違う。しかも、ここは地下だ、扱う技を選ばなければ。私は魔導書を開き爆発系以外の技を探す。


「これか!ヨルヒ、イメージしろ、炎のかまいたちを作る技だ」

「はい、お姉さま」


 ヨルヒは両手に炎の渦を繰り出し、更にその炎は刃物の様に鋭くなる。


「ヨルヒ、火炎カッターだ」


 それは炎の刃であった。その刃が魔族にヒットすると。簡単に燃え尽きる。


 弱い、弱すぎる。


 不安な気持ちで戦闘を終える。


 私達は地下墓地を後にすると出店街に向かう。夕方になり活気に満ちた街で後ろから声をかけられる。


「お嬢さん、また、会ったな」

「おーサンダース、探したからな」


 私は旅の商人のサンダースと再会を喜ぶ。ここは例の挨拶をしよう。私は両手の拳を出すと、サンダースも同じ様にする。勿論、グータッチで挨拶だ。


 「ところで、サンダースは地下墓地の魔族の事を知らないか?」


 この胸がドキドキする胸騒をサンダースにぶつける事にした。


「それはシャドーマスターだ。魔王シェパードとの戦いの時に、この王都カレーダの街を襲った恐ろしい魔族だ」


 やはり、とてつもない相手であったか。私がヨルヒの瞳を見て気合を入れた、その瞬間である。


『ウーウン、ウーウン』


 王都の街にサイレンが鳴る。それは地下墓地で倒したはずのシャドーマスターであった。毒霧を吐き、王都カレーダを襲っている。


「ヨルヒ、行くぞ!」

「はい、お姉さま」


 私達が魔族の下まで行くと。


「我はシャドーマスター、その存在は水銀の塊である。そして、魔王シェパードの右腕としてこの地を滅ぼす」

「あの毒霧は水銀か。不味いな、レッドバイブルであるヨルヒは基本、炎の技しか使えない」


 カナルさんが困った様子で呟く。そうか……水銀は熱で気化して毒霧になるのだ。


 尚もシャドーマスターは水銀の毒霧を人々に吐く。


「待たせた、このアリシアがシャドーマスターを切り裂く」


 アリシアが走って私達と合流する。


「切るって、水銀でしょう?」


 私は素朴な疑問をアリシアにぶつける。


「サードカテゴリーの魔導書をナメルな。この剣は魔導書の魔力でできている」


 そう言うとアリシアは左腕の包帯を外す。左腕に埋め込まれた魔導書が輝き左腕が剣になる。


 サードカテゴリー……賢者イナの作った魔導書を超すかもしれない存在……。


 私はサンダースの言葉を思い出す。確か魔族がサードカテゴリーの魔導書の開発に脅威を感じて魔王シェパードを復活させるとか。


 元々は国家間の争いで生まれた品物だ。それが魔王シェパードの復活になるとは。これも人類の定めなのかと複雑な気持ちになる。


 アリシアに気づいたのかシャドーマスターは上空高くに陣取る。人並み以上の脚力のアリシアでも届かない高さだ。


「ダメか……シャドーマスターの位置が高すぎる」


 アリシアは弱音を呟く。シャドーマスターは更に毒霧を吐き、王都を攻める。大混乱の王都の街から一人のシスターが現れる。その手には水晶玉を持っている。すると、水晶玉は静かに語り出す。


「私の名前は賢者イナ、滅んだ肉体を捨てて今は水晶玉となっています」

「賢者イナだと!!!」


 驚く皆であった。当たり前だ、伝説の賢者である。


「お困りの様子、私がレッドバイブルの属性を氷属性に変えましょう」


 水晶玉から光が放たれる。


 これは!!!


 レッドバイブルが光り文字が置き換わる。魔導書の技がすべて氷属性になっている。これなら行ける。


「ヨルヒ、ダイヤモンドダストだ」


 ヨルヒの体から冷気が吹き出しシャドーマスターに当たる。


「賢者イナだと、また、我を滅ぼすのか?」


 ダイアモンドダストの冷気を受けたシャドーマスターは液体の水銀から個体となり地上に落下する。


「今だ!」


 アリシアがシャドーマスターを切り裂く。


「おのれ、おのれ、おのれ……!」


 サードカテゴリーの魔導書の魔力をおびたアリシアの剣は悪しき水銀を滅ぼすのであった。そして、氷属性の魔導書は元の炎属性になる。


 その後、サンダースと別れて魔導図書館に戻る。


「あらためて自己紹介するわ、私の名前は賢者イナ。今は水晶玉に魂が宿っています。そして、こちらがシスター・アスカです」

「は!?」


 ルビー館長は驚いた様子あった。


 そうか……伝説の賢者イナだ、驚く方が当然である。


「魔王シェパードが復活しようとしています。私は田舎の教会で静かに眠っていました。しかし、こうして戦闘の最前線に戻ってきました」


 その言葉に迷いは無く賢者イナは本気で魔王シェパードと戦うつもりらしい。

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