第3話 迎撃!
「新人戦ライト級二回戦第一試合。赤、革手工業高校、柿田
「山本先生、柿田君の首、すごくゴツイですね」
「オウンゴール・ショット効かへんかもな」
「じゃあ、やめときます」
「ほな
「オッス!」
顧問の山本教諭が
リング上で今回は青コーナーの
カーーーーーン!
試合開始のゴングが鳴った。革工の柿田は右のオーソドックス。サウスポーの
さらに半歩踏み込んで互いに近づき互いにジャブを打つ。が、これも双方のパンチがぶつかって跳ね返る。続けてジャブの2連打。これもパンチ同士でぶつかってしまう。
向かい合ったまま前へ鋭く踏み込み互いにワンツーを打ち合う。この互いのワンツーもジャブとジャブ、ストレートとストレートがぶつかり弾け合う。
「ようし、柿田、手数出てる。いいぞ、その調子!」
「
互いの陣営のセコンドが当たり前のように声援を送っている。
今度は双方ジャブの2連打からの体重を乗せたストレート。これもジャブの2連打が互いに衝突し、最後のストレートまでもがしっかりぶつかる。まだ、どちらのパンチも相手の頭やボディには届いていない。
「柿田、よく見て、よく見て。慎重に当てていこう!」
「
「なんだこの試合は! あり得ない!」
試合を見ていた井ノ口高校の森は異常に気付いた。冷や汗をかき爪が食い込むほど拳を強く握りしめる。
「あいつ、人間か?」
森は確信した。あのリングの上にいるのは間違いなく化け物だ。
リング上のお互いの攻防が続くがはやはり相手には届いていない。
試合を見ている多くの者たちがようやくこの試合の異常さに気が付き始める。
「おい、あのリング状の二人の動きって左右逆だけど全く同じ動きじゃないか!」
「それだけじゃないぞ、お互いのパンチとパンチが全部ぶつかり合って相手にまで届いていない」
「偶然か?」
「偶然がこんなに続くか!」
「そんなの人間技じゃねえぞ!」
「どっちだ! どっちが仕掛けたんだ?」
「わからん!」
リングの周りが騒がしくなってきた。
「柿田! インファイト! もぐりこんで、どんどん攻めろ!」
革工のセコンドが柿田に声をかけている。
柿田が目をすがめて顔で
「なんのマネだ!」
「
「ふざけんな!」
柿田はやはりタフさに自信があるのか、打たれるのを覚悟で思い切り踏み込みインファイトを選ぶ。
「ようし、効いてる、効いてる! その調子! その調子!」
「柿田! いけ! やっちまえ!」
革工の柿田陣営が大いに盛り上がる。
「あーあ、可哀そうに。あれ痛いんだよなぁ」
「気の毒ですよねえ」
突然、柿田はラッシュをやめてステップバックで距離をとった。
「柿田どうした! あっ!」
見れば、柿田の両腕が真っ赤に腫れている。
「テメエ!」
「肘は固いんだよ」
「
山本教諭が両手をメガホン代わりにして叫ぶ。
「
今度は
「またマネか!」
柿田が初めて
ガッ!
柿田の身体はのけぞり、自分の腕で視界も覆われる。そこへ大きく踏み込んだ
パーン!
銃声のような、あるいは鞭のような、非情に乾いた音が響く。柿田の身体が一瞬固まったあと前のめりに沈んだ。
「ワン、……ツー、……スリー、……フォー、……ファイブ」
レフリーがカウントを始める。柿田は起き上がろうと両手をリングについて四つん這いになる。
「まだいける、柿田! 立て! 立てるよ!」
「柿田! がんばれ!」
革手工業高校のセコンドの檄が飛ぶ。
「……シックス、……セブン、……エイト……」
柿田は片膝を立ててどうにかこうにか体を起こし立ち上がろうとする。
「もうちょっとだ。柿田! 立てえ!」
だが、そこまでだった。
「……ナイン、……テン!」
レフリーが両手を素早く交差させて試合終了を告げる。
カンカンカンカン!
非情のゴングが打ち鳴らされた。
「1ラウンド1分10秒。青、
三分一(さんぶ・はじめ)はこれで2連続で1ラウンドKO勝利だ。
「先生、相手がタフで、つい1分超えちゃいました」
大きな口を開けてはあはあと
「やっぱり1分10秒はキツイか? まだ余裕あるんか?」
「もうちょっと、1分20秒くらいなら行けそうです」
「
「ありがとう!」
「よし、きっちりクールダウンするぞ」
「オッス」
「あれだけ動いたのに、
森小五郎は明日、日曜日の新人戦決勝も
つづく
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