第87話 バースたちの罪


「あれ? ソータさん?」


 ゴブリンの群れを無事に追いやって、俺たちの乗る馬車は街行きの馬車が出る乗り換え地点に到着した。


 すると、そこには思いもしなかった人たちがいた。


「え、なんでエリさんたちが?」


 そこにいたのは、冒険者ギルド職員のエリさんとギルドマスターのハンスさん、それと憲兵たちの姿があった。


 俺が馬車から降りていくと、サラさんは俺の後ろからずらっと降りてきた人たちを見て、目をぱりくりとさせる。


「ん? な、なんでもうバースさんたちが手縄を?」


 エリさんとハンスさんの視線の先には、手を縄で縛られた状態のバースたちがいた。


ゴブリン騒ぎの後、バースたちが変なことをしないようにと思って、御者が持っていた縄を使って手を縛っておいたのだ。


「あー、色々とありまして」


 それから、俺はバースたちが今までやっていたことと、今日の出来事をかいつまんでエリさんとハンスさんに話した。


 俺の話を聞き終えた二人は、あからさまに大きな溜息を漏らす。


「ゴブリンの群れが近い所で魔物を呼ぶ笛を……バースさん、何がしたいんですか?」


「おまえらは、なんでそうも罪を重ねたがるんだ」


 二人にじろっと見られて、バースはふいっと視線を逸らす。


 反省しているようには見えないけど、とりあえず、ギルドに報告はできた。


多分、これで冒険者ギルドも動いてくれるだろうし、バースたちを捕まえてくれるだろう。


「そういえば、エリさんたちはどうしてここに?」


「バースさんたちが乗客たちを恐喝してるって聞いて、憲兵さんと一緒に捕まえに来たんですよ」


 エリさんは腕を組んでバースを軽く睨む。


 そういえば、行きにいた人が何人かいなかった気がする。


 まだヘリス高原に残っているのかと思ったけど、個人的に馬車を借りて先に街に戻っていたのか。


 俺がなるほどと声を漏らすと、バースが不満げに地面を蹴る。


「ちっ! チクりやがったのかよ。あいつら、オリバさんが怖くないのかよ」


 バースが聞こえるように舌打ちをすると、ハンスさんが怪訝な顔でバースを見る。


「何言ってんだ? オリバなら捕まったぞ」


「は? つ、捕まった⁉ 聞いてねーぞ!」


 バースは驚いて俺をバッと勢いよく見る。


 縄で縛られている他の護衛組たちも、なぜか俺に説明を求めるよう顔をしている。


「いや、別に雑談するほどバースと仲良くないし、言ってないけど」


「お、おまっ、」


 俺が首を傾げながそう言うと、バースは何か言おうとして口をパクパクとさせていた。


 言葉が出てこなかったのは、多分俺が何も間違ったことを言っていないからだろう。


 別に、あえて教えてあげる義理もなかったしね。


 やがて、憲兵たちはバースたちが縛られている縄を持って、バースたちを護送用の馬車に押し込んでその場を後にした。


「そういえば、バースたちってどんな罰になるんですか?」


 その場に残っていたエリさんに聞いてみると、エリさんは少し考えてから頷く。


「バースさんは恐喝だけでなく、故意的に魔物を集めて大勢に危害を与えようとしたわけですからね。まぁ、炭鉱行きでしょうね。他の皆さんは余罪次第ですかね」


「なるほど。確かに、把握していないだけで結構ありそうですもんね」


 ここまで悪いことをする連中が、恐喝だけしかしていないとは考えられない。


 もしかしたら、年数は違うだけでみんな仲良く炭鉱送りになったりするかもしれないな。


「まぁ、炭鉱から帰って来てもオリバもいませんから、もう好きにはできないでしょう」


 オリバの脅威がなければ、簡単にギルドに報告されるというのは、バースも今回の事件で身をもって分かっただろう。


 ……今後はオリバの部下が起こす変な事件に巻き込まればいいな。


 そんなことを思いながら、俺たちはバースたちが運ばれて行く馬車を見送るのだった。

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