第85話 見掛け倒し
ゴブリンロードを倒した俺には、最後の大仕事が残っていた。
それは統率の取れなくなったゴブリンに追い打ちをかけること。
突然、ゴブリンロードというリーダーを失って、ゴブリンたちは冷静な判断ができなくなっている。
それなら、少しビビらせてやれば巣に戻るはず。
俺は引き続き地面に手を突いて『火球』を六つ重ねて、頭の中で発動させるイメージをする。
発射位置はさっきまで二匹のケルたちがいた最終ライン付近。
発射口は限界まで広げつつ、一直線上になるように調整する。
よし、これでいけるはずだ。
「『火球』!」
俺がグッと構えながら地面に手を置くと、さっきまでケルたちが守っていた最終ライン付近からの地面から、一気に炎が噴き出した。
発射口を広げたため勢いはないが、一瞬だけ堤防のような高さまで炎が立ち上がる。
「ギ、ギィ!」「ギャァ!」「ギギィ!!」
すると、その炎を見たゴブリンたちは脅えるように回れ右をして逃げだす。
さっき自分たちのリーダーが簡単に炎で屠られたのを目撃したからだろ。
正直、ただ範囲を広げた代わりに今の炎は威力がほとんどないと思う。
それなのに、さっきゴブリンロードがやられた炎と今の炎を重ねてしまったのだろう。
焦って転びながら逃げ出すゴブリンたちは、自分たちの巣に向かって急いで避難していった。
……うん、ゴブリンロードが一瞬でやられたのが、結構トラウマになったのかな?
そう思うくらい、ゴブリンたちは慌てふためいていた。
そして、少し経った頃には俺たちの前にいたはずのゴブリンたちは、一体も残らずに退散してしまった。
ケルとサラさんが倒したゴブリンたちと、黒焦げになっているゴブリンロードを除いて。
「一件落着、ですかね?」
「うん。そうみたいだね。まさか、本当に三人だけでゴブリンの群れを追い払うことができるなんてね」
サラさんはそう言うと、くすっと可笑しそうに笑う。
確かに、これだけ少人数でゴブリンの群れを追い払ったという話は聞いたことがない。
今さらになって俺も可笑しく思えてきて笑っていると、ケルが俺たちの方にとててっと走ってくる。
「ソータ!」
ケルはヘッヘッヘッと可愛らしい子犬のような息遣いをして向かってくると、そのままぴょんっと俺に抱きついてきた。
「おっと」
俺が慌ててケルの体を支えると、ケルは興奮した様子で顔を上げる。
「さすが我が主であるぞ! ゴブリンロードを容易く倒すとは!」
「ケルたちのおかげだよ。一人だったらどうしようもできなかったと思う」
ケルやサラさんがいなかったら、ゴブリンロードの所までたどり着けなかった。
そう思うと、この三人じゃなかったらゴブリンの群れを追い払うなんてことはできなかったのだろう。
ケルはよほど興奮しているのか尻尾をブンブンと振っている。
ゴブリンを追い払えたことは嬉しいけど、ケルがこんなに興奮するとは思わなかったな。
そう思ってケルの頭を撫でていると、ケルは俺から視線を外す。
「さて、それではメインディッシュといこうではないか」
ケルはそう言うと、パァッとした笑みを浮かべて馬車の方を見る。
「メインディッシュ?」
何のことだろうと思って首を傾げながら馬車の方を見てみると、そこには尻餅をついているバースたちの姿があった。
バースたちは恐れおののくような表情で、俺たちを見ている。
……なるほど、ケルが喜んでいる本命はこっちか。
俺は尻餅をついている無様なバースを嬉しそうに見るケルを見て、笑わずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます