第83話 サラの剣技


 準備する魔法は覚えたばかりの拘束魔法だ。


 ケルのアドバイスもあって、俺の拘束魔法はかなり進化していた。


 ゴブリンロードと言えど、初めて見る俺の拘束魔法には対応できないはず。


 発動に時間がかかると致命的なので、魔法の重ねがけはせずに常に頭の中に『黒影鞭』を発動できる準備をしておく。


 あとは、ゴブリンロードを目視で確認できれば、すぐにゴブリンロードを拘束できるだろう。


『魔力探知』で大体の場所は分かっていても、さすがに『魔力探知』だけを使って見えない敵を捕まえることはできない。


 そして、ゴブリンロードを見つけるためには、俺を守りながら進んでいるサラさんの助けが必要不可欠だった。


「サラさん! 体力は平気ですか?」


 サラさんは目の前にいるゴブリンたちを鮮やかな剣技で倒しながら、振り返る。


「全然問題ないよ。ケルが言っていたように、このまま殲滅できるくらいだよ」


 サラさんはそう言いながら、また目の前のゴブリンを軽く屠る。


 ……やっぱり、サラさんって結構強いんだよね。


 この力を見抜けなかったパーティは、一体何を考えていたのか。


 そんなことを考えていると、不意にゴブリンたちのすき間から体の大きなゴブリンの姿が見えた気がした。


 少し遠くにいるけど、『魔力探知』の場所的にも間違いないかもしれない。


「サラさん! 今一瞬、こっちの方向にゴブリンロードらしき影が見えました!」


 俺がサラさんの服を掴んでそう言うと、サラさんはじっと俺が指さす方を見てこくんと頷く。


「こっちの方向だね。分かった。他のゴブリンたちが邪魔だから、少しどかそうか」


「ど、どかす?」


 サラさんに少しだけ近くを離れるよと言われ、俺がサラさんの服から手を離すと、サラさんは一呼吸置いてから強く地面を蹴った。


 そして、俺が指さした方に突っ込んでいくと、水流のように自然な流れで剣を何度も振るう。


「『三の型、水芭蕉』!」


「ギャ!!」「グギャァ!」「ギギャ!!!」


 サラさんが通る道にいたゴブリンたちは次々に斬られていき、ドミノ倒しのようにゴブリンロードへの道が開かれていく。


 徐々にゴブリンたちの間から、体の大きなゴブリンロードが見える範囲が広がっていく。


やがて、ゴブリンロードの前にいたはずのゴブリンたちが皆倒されて、地面に伏せた。


 突然の事態に戸惑いながら構えるゴブリンロードを前にして、サラさんは俺を余裕の表情で振り返る。


「悪いね。君の相手は私じゃないんだよ」


 サラさんはそう言い残して、真横に大きく跳んだ。


 そして、俺とゴブリンロードの間には障害物は何もなくなった。


 ……サラさん、最高過ぎる。


 ゴブリンロードはようやく俺の存在に気づいたようだが、すでに遅すぎた。


「『黒影鞭』」


 俺が地面に手を置いてそう唱えると、勢い良く地面から飛び出た一本目の『黒影鞭』がゴブリンロードの脚に巻き付いた。

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