第81話 馬車からの声援


「馬鹿野郎! ゴブリンの群れだぞ! 無理に決まってんだろ!」


「ケイン! こいつらも置いて逃げようよ!!」


 俺たちがゴブリンの群れに立ち向かおうとしていると、後ろからケインとモモの声が聞こえてきた。


 ……どうやら、あまり俺たちは期待されていないみたいだ。


 まぁ、バースたちからしたら、俺たちはただの弱い下級パーティだと思っている訳だし、仕方がないか。


「ソータさんたち! がんばれ!」


「え?」


 俺が思いもしなかった声に振り向くと、そこには馬車から俺たちを応援している乗客たちの姿があった。


 一人の乗客の声援を皮切りに、一気に俺たちを応援する声が馬車の中から溢れてきた。


そんな声援を前に、俺たち以上にバースたちが驚いている。


 俺は目の前の事態を前に、思わず笑みを零してしまう。


「これじゃあ、恥ずかしい戦いはできないね」


「元よりそんな戦いをする気などないぞ、ソータよ」


 ケルはそう言うと、一歩前に出てから地面を強く踏んだ。


すると、バンッという音と共にケルを囲むように紫色の魔法陣が形成された。


「さぁ、刮目せよ!! ゴブリンども、愚かな人間ども!!」


 ケルがそう言うと、カッと魔法陣が光って、ボフッと白い煙がケルを覆った。


 そして、その煙が晴れた先にいたのは、三匹の可愛らしい黒色の子犬たちだった。


 ケルからしたら胸を張っている姿は凛々しいつもりなんだろうけど、俺にはちんまりとしている可愛らしい子犬にしか見えない。


「か、可愛い……」


 馬車の中からそんな声が聞こえた気がしたが、俺はあえて聞こえないふりをすることにした。


 うん、多分本人は威圧的な感じだと思っているだろうし、触れずにいこう。


「ソータ、私たちに支援魔法をマシマシでお願いしていいかな?」


「はい、任せてください」


 流れるような自然な仕草で剣を引き抜いたサラさんは、俺に優しい笑みを浮かべる。


 俺はいつもかけている支援魔法に追加で、何重かの支援魔法をサラさんとケルたちにかける。


 ケルたちとサラさんは支援魔法をかけられてすぐに体の違いに気づいたのか、おおっと小さな歓声を上げていた。


「ふむ。ソータの支援魔法があれば、ゴブリンの群れを殲滅することもできそうだな」


「うん。ソータの支援魔法があると、本当に殲滅できそうな気がするよ」


 大袈裟に反応してくれる二人の言葉に笑みを返して、俺はこちらに向かってきているゴブリンたちを見る。


「そこまでしないで平気ですよ。作戦通りで行きましょう」


 俺がそう言うと、二人はこくんと頷く。


「それじゃあ、二人とも頼みますよ」


 俺がそう言うと、ケルたちが一番に飛び出していった。


 そして、俺とサラさんもケルたちの後ろを追うようにして戦場に向かうのだった。

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