第80話 接近中、ゴブリンの群れ

「うん、それが一番いいかもしれないね」


 三人だけの作戦会議を終えると、サラさんは静かに頷く。


 そんなサラさんを見ながら、俺は頬を掻く。


「確かに、その作戦なら俺たち三人でゴブリンの群れを追い払うことはできるかもしれません。でも、ケルとサラさんの負担が大きくないですか?」


 ケルの作戦は挙動が読めないバースたちを加えないものだし、上手くハマれば一番効率が良い。


 でも、それだけ前衛を担う二人の負担が大きな作戦な気がする。


「我は問題ないぞ。真の姿を愚かな人間たちにも拝ませてやることにしよう」


「私も問題ないかな。ソータの支援魔法があれば、どれだけ数がいてもいける気がするよ」


 俺の言葉を聞いて、ケルは胸を張ってふんすと鼻息を漏らして気合十分だった。


サラさんも自信気な笑みを浮かべているし、二人とも無理をしているようには見えない。


 ……うん、二人ともそう言ってくれているし、何も問題はないかな。


「分かりました。それじゃあ、ケルが考えた作戦で行きましょう。二人とも、よろしくお願いします」


 俺がそう言って立ち上がると、二人は力強く頷く。


 俺たちが席から立って馬車の出入口の方に向かうと、そこには喧嘩をしているバースたちの姿があった。


そして、俺たちの存在に気づいたバースは、苛立ちを隠せない様子で俺を強く睨んできた。


「あぁ⁉ 何の用だ、クソガキ!」


 馬車が少し前から止まっていたのは気づいていたけど……バース、馬車から下ろされてたんだ。


 どうやら、バースを囲んでいる他の護衛組たちも、見るからに機嫌が悪いようだ。


 それに加えて、不安と焦りのせいなのか顔も随分と青い。


「お、おいガキ! おまえらもバースを説得してくれ。こいつのせいで御者が動きやしねー!」


 ケインはバースを指さして、慌てるようにそう言った。


 俺はケインに説得をお願いされるという事態に驚きながら、静かに首を傾げる。


 なるほど。現状とケインの言葉から察するに、バースは力強くで馬車から降ろせたけど、バースに脅されている御者が馬車を出そうとしないから困っている感じかな?


「本当にこいつ馬鹿過ぎでしょ! どうすんのよ!!」


 モモが必要以上に取り乱しているのは、目視で分かる距離までゴブリンの群れが俺たちに近づいてきているからだろう。


 うん、さすがにこれ以上悠長にはしてられないね。


「それなら、少しだけ待っていてもらってもいいですか?」


「あぁ? おまっ、少し待ったら俺たちもゴブリンの群れに襲われて終わりだぞ!」


 俺は焦るようにそう言ってくるケインたちをその場に残して、歩き出す。


「俺たちがゴブリンの群れを追い払います。だから、それまで待っていてください」


 俺は馬車にいる人たちにも聞こえるようにそう言ってから、こちらに向かってくるゴブリンの群れの方に体を向ける。

 

 馬車の護衛をやると言った以上、馬車を守りきらないとね。


 こうして、俺たちパーティ対ゴブリンの群れの戦いが幕を開けた。

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