第79話 孤立するバース
「やめろっ……離せって言ってんだろうがぁ!!」
バースはモモを突き飛ばすようにして、胸ぐらを掴んでいたモモを強く押した。
モモはフラフラっとしてから、強くバースを睨み続ける。
そんな二人のやり取りを見て、ケインは腰を上げて頭をバリバリと掻いていた。
「モモ。こいつにそれ以上何か言っても無駄だ」
「無駄だって……ケインは、こいつに何も言わないで気が収まるって言うの⁉」
ケインは互いに肩で息をし合っているバースとモモを冷めた目で見てから、言葉を続ける。
「バースを置いていこう」
「はぁ⁉ てめぇ、何言ってんだケイン!!」
ケインは声を荒らげるバースをジロッと睨む。
「笛を吹いた者の所に魔物が集まるのかもしれない。それなら、こいつをここに置いていけば、魔物たちがこいつに群がるだけで終わるかもしれないだろ」
ケインがそう言うと、顔を青くしていた護衛組の顔が微かに明るくなり、おぉっという声を漏らす。
どうやら、話し合いをしなくても方針が決まったらしい。
「おい、ケイン!! 俺を裏切るって言うのかよ!」
「裏切る? おまえが馬鹿過ぎたのが悪いだろ。せめてもの情けだ、自分で馬車を降りるなら殺さないでおいてやる」
ケインの言葉のあとには、護衛組の方から『そうだ降りろ!』という声が聞こえてくる。
どうやら、ゴブリンの群れを前に、バースは完全に孤立してしまったらしい。
「お、おまえら……」
バースは怒りのせいで肩を震わせていたが、圧倒的に不利な状況を前に何も言えずにいた。
バースは耳の先まで真っ赤にしてから、何かを思い出したようにハッと顔を上げて振り返る。
「おい、御者!! 俺がこんな所で死んだら、オリバさんが黙ってねーからな!! 家族の無事が惜しければ、俺がいない状態で馬車を出すんじゃねーぞ!!」
「は、はい!!」
バースが馬車の壁をバンバンッと力強く叩きながら言うと、御者は脅えたような声で返事をした。
なるほど、御者は家族を人質に取られているのか。
相変わらず、期待を裏切らないくらいのクズっぷりみたいだ。
「ちょっ、ケイン! こんなこと言ってるけど、どうすんの⁉」
「クソッ、時間がないって言うのに面倒なことを」
思ってもいなかった反撃をされたのか、モモもケインも頭を抱えている。
どうやら、これ以上バースたちのやりとりを見ていても何も変わらなそうだ。
「ソータ、そろそろ動かんと手を遅れになるぞ」
「うん、そうだね。作戦を立てないとだけど、どうしようか」
ケルも同じ事を考えていたようで、ケルは俺の膝の上から下りて俺を見上げる。
「ソータ、そんなにゴブリンの数が多いのかい?」
「はい、多分百は超えているんじゃないかと思います。本当は護衛役の冒険者にも支援魔法をかけて、ゴブリンたちを倒しながら進むのがいいんですけど、この状態じゃそれは無理ですね」
ゴブリンの数を考えると、こちらも数がいた方がいい。
バースたちもC級パーティなので、俺が支援魔法をかければ結構な戦力になってくれるかなと一瞬思っていた。
でも、今のこのバチバチした状態で支援魔法なんか掛けたら、バース対他の護衛組で殺し合いでも始まってしまいそうだ。
それに、俺の支援魔法の力を自分の力だと勘違いしたケインやモモたちに襲われる可能性もないとは言えない。
「……本当に、どうしようかな」
俺がむむっと唸って考えていると、ケルが俺の脚に自分の前足を乗せて俺を見上げる。
「それなら、我に作戦があるぞ」
そう言ってきたケルの作戦を聞いた俺たちは、喧嘩しているバースたちをよそに作戦会議を始めた。
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