第78話 知らない計画


「ゴブリンの群れ? お、おい、バース! なんでそんなところで『魔物呼びの笛』なんか使ったんだ!」


 バースが高笑いをしているのに対して、バース以外の護衛組は顔を青くさせている。


 あれ? 護衛組みんなで計画していたことではないのか?


 俺はバースの周りが慌てている事態を前に、首を傾げる。


「なんでって、おまらだってクソガキにでかい顔されてストレス溜まってただろ? 復讐のためには、このくらい大体的にやんないとダメだろうが」


 バースは鼻で他の護衛組を笑うが、護衛組の表情は青くなったままだ。


「だ、大規模なゴブリンの群れって、その群れごとここに向かってくる訳じゃないわよね?」


「あぁ? 群れを向かわせるために笛を吹いたんだろ? さっきからお前ら何言ってんだよ?」


「なんで分かんないのよ!! あのガキが殺されたあと、私たちだけでゴブリンの群れを相手にするっていうの⁉」


 発狂寸前のモモに強く睨まれて、バースはようやく状況を理解したようで、顔をサーッと青くさせる。


 どうやら、俺たちに復讐したいという気持ちが先走り過ぎて、その後のことを一切考えていなかったらしい。


 ……いや、そんなことあるの?


「おい! 馬鹿みたいな数のゴブリンがこっちに向かっているぞ!」


 ケインが身を乗り出して馬車から外を見て、バースにそう叫ぶ。


 しかし、バースは自分がしでかした失敗を前にフリーズしてしまっていた。


「バース! 今すぐ魔物たちを元にいた場所に戻せ! 呼ぶことができるんだから、ゴブリンたちを帰すことくらいできるだろ!」


 ケインがバースの肩を強く叩いて声を荒らげると、バースはハッとしたように顔を上げる。


 しかし、その顔は青いままだった。


「し、知らねーよ、そんな方法」


「はぁ⁉ その笛であのクソガキや乗客たちを襲わせる命令をしたんだろ? それなら、命令を少し変えることくらいできるだろうが!」


「これは魔物を呼ぶための笛だ! 命令なんてしてねーし、呼ぶ以外の用途なんか知らねーよ!!」


 バースが怒鳴るように叫ぶと、護衛組がざわつきだした。


 あれ? さっき、バースは魔物に俺たちを襲わせるって言ってたよね?


 それなのに、命令をしていないってどういうことだろう?


 俺はむむっと考えていると、モモが小さく肩を震わせながらバースを見る。


「待って。ていうことは、普通に私たちを襲う可能性もあるってこと?」


「それは、ないだろ。俺が呼んだんだぞ? 普通、呼んだ奴を殺したりしないだろ?」


「俺たちを殺さないっていう確証はあるのか?」


 ケインがため息を漏らしながらバースを睨むと、バースは慌てるように目をキョロキョロとさせる。


「お、オリバさんがくれたんだぞ! 確証なんかなくても、大丈夫だろ!!」


 オリバの言葉を聞いたケインは頭を抱えて、その場にへたり込み、モモは『ふざけんな!』とバースの胸倉を掴みかかっている。


「中々の地獄絵図だな、これは」


 そんなバースたちを見ていたケルは、尻尾を垂らしながら俺を見る。


 どうやら、ケルも愚かすぎるバースたちの行動にさすがに呆れてしまったらしい。


 もしくは、今の事態がかなり良くないのか。


 その両方な気がして、俺は喧嘩を始めたバースたちをジトっと見るのだった。


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