第77話 魔物呼びの笛
「まさか、クソガキがここまで馬車を護衛できるとは思わなかったぜ」
バースはわざとらしい身振り手振りで驚いたふりをしてから、鼻で笑う。
「まぁ、馬車を襲ってきたのは、全部下級パーティでも片づけられるような雑魚魔物ばかりだったけどな」
バースの言葉を聞いて、バースたちはニヤニヤと笑う。
確かに、馬車を襲ってきた魔物は、そこまで強くはなくて、下級パーティでも倒せるような相手だった。
それでも、それが複数体いるとなると、結構話も違ってくる気がするんだけどな。
「まぁ、下級の雑魚パーティにしては上出来だ。ただ……上の者に対する接し方がなってねぇよなぁ」
バースはそう言うと、ニヤッと笑って続ける。
「ここの乗客たち、おまえらもだ。前に言ったはずだぜ?『弱いやつが強者に逆らって生きていけるわけない』ってな!!」
バース今まで溜めていた怒りをぶつけるように、急に感情的な口調になる。
そして、胸元から何かを取り出した。
「あれは……随分と禍々しいものだな」
「笛、なのかな?」
俺はいつになく真剣なケルの声に首を傾げる。
さっきまでウキウキしてバースたちを見ていたのに、急にケルの顔色が変わった?
「ねぇ、ケル。あれってーー」
ビュィィィィィィ!!!!!
しかし、俺がケルに笛のこと聞くよりも早く、バースは腹いっぱいに空気を溜めてその笛を鳴らした。
普通の笛よりも何音も低い奇妙な音。
その奇妙な音が大音量で流れてくるので、俺たちを含めた乗客たちは慌てるように耳をふさぐ。
「な、なんだ今の音は? ……え?」
「これは、かなりマズい状況になったかもしれんな」
『魔力探知』に優れた俺とケルは、他の人たちよりも早く今俺たちが置かれている状況を把握してしまった。
こんなことって、あり得るのか?
俺が恐る恐るバースを見ると、バースは抑えきれなくなった笑い声を漏らす。
「ハハハハッ! さすがビビりのクソガキだ! 魔物が近づいてきているとには、早く気づくみたいだな!」
バースは俺を見下すように見ながら、得意げに胸を張る。
「これはオリバさんから貰った『魔物呼びの笛』だ。この笛を吹けば、魔物がおまえらを襲いにやってくるんだよ!」
バースが笛を吹いてから、『魔力探知』に数えきれないほどの魔物が引っかかった。
一気にこちらに向かってきているみたいだし、バースの言っていることは嘘ではないらしい。
ん? というか、今さっきオリバから貰った笛って言った?
まさか、こんなところで、またオリバに迷惑をかけられるとは思いもしなかった。
バースはニタッとした顔で他の乗客たちを見ながら言葉を続ける。
「そして、驚け。ここの近くにはゴブリンの大きな群れがある。冒険者ギルドから絶対に近づくなと言われていた場所だ。そんなところで、こいつを吹いたんだ。……あとは言わなくても分かるよな?」
バースの言葉を聞いて、馬車の中がざわつき出した。
魔物に襲われることを怖がる者や、バースたちを睨む者たちがいる中、バースはそんな馬車の様子を笑みを絶やさずに見ている。
「悪く思うなよ、弱いおまえらが強者の俺たちに逆らうからだ。この商売、舐められたら終わりなんだよ。とことん甚振ってやるから覚悟しろよ」
バースはそう言うと、乗客たちをギロッと強く睨む。
いや、冒険者って、そういう商売じゃなくないか?
そんなことを思いながら、大量のゴブリンたちが接近してきているという事実を前に、俺は焦りを隠せずにいた。
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