第76話 静かなバースたち
魔物を倒し終えて馬車に戻ると、馬車の乗客たちの歓声が俺を迎えてくれた。
思っていなかった反応を前に、俺は恐縮するように頭を下げながら自分の席に戻る。
「お疲れさま、ソータ。ファングたちも一発で倒すなんて、さすがだね」
「ふむ。さすが我が主よ」
優しい笑みを浮かべるサラさんと、俺の膝の上でちょこんと座って俺を見上げるケル。
二人にも褒められて、俺は口元を緩める。
「ファングがまっすぐ突っ込んで来てくれたっていうのもありますけどね」
「そんなことはないさ。なんか前にみた『火球』よりも勢いがあったように見えたよ」
「はい、圧縮率を変えてみたんです。そしたら、結構勢い出ました」
我ながらさっきのファングとの戦いは良かったと思う。
拘束魔法の修業の中で、魔法の発射口を絞って圧縮率を変えていたことが、ここでも活きてきているようだ。
俺は腰を下ろして一息ついてから、あっと小さく声を上げる。
「そうだ。バースたちに変化はありましたか?」
俺が思い出したように聞くと、サラさんはうーんと考えて指を顎に置いて考える。
「驚いていたくらいかな? ソータが簡単にファングを倒したとき、バースたちは開いた口が塞がらなくなっていたね」
「ふむ。中々のアホ面を眺められて我は満足だった」
サラさんがケルを見てそう言うと、ケルはさっきまでのバースたちの表情を思い出したのか、パァッと顔を明るくさせていた。
ケルの反応から察するに、結構良い間抜け面を見せてくれたのだろう。
その顔が拝めなかったのは少し残念かもと思うくらい、ケルは良い表情をしている。
「あっ。そういえば、何か紙を見ていたね」
「紙ですか?」
思い出したようなサラさんの言葉に首を傾げると、サラさんは言葉を続ける。
「うん、何かの紙を他のメンバーたちに見せてたかな」
ただ紙を見せただけってことは、何かの作戦の共有かな?
俺がいないうちに乗客たちに何かするかもと思っていたけど、目立って行動はしていないらしい。
そっか。そういえば、バースたちはまだ俺が古代魔法の使い手であることも知らなそうだし、自分たちよりも格下の相手だと思っている。
それなら、何も俺に隠れて何かをしようとは思わないか。
少しサラさんの言葉が気になるけど、問題はないかな?
結局、それからしばらく経ってもバースたちが何か行動を起こすことはなかった。
俺が馬車を襲う魔物たちを倒して護衛をすることで、馬車は順調に進んでいた。
本当に何もしてこないのかな?
「……そろそろか」
そんなことを本気で考え始めてしまったくらいのタイミングで、急にバースは俺を見る。
そして、バースは立ち上がると、何かを企むようなニヤッとした笑みを浮かべた。
どうやら、このまま何もなく終わるなんてことはないみたいだ。
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