第75話 焦るバースたち


 一方バースたち。


 バースたちはソータが軽くファングたちを倒した姿を見せられて、非常に慌てているようだった。


「ちょっと待ってよ! ファング一撃で倒してるんだけど!」


 モモは声を殺しながら、バースを強く睨む。


 バースたちは以前、ソータたちがハイリザードを倒したときは、子犬のようなケルに小突かれてくらいでフラフラするくらいの魔物だったから、ソータたちが倒したハイリザードは死にかけだったのだと勘違いをしていた。


 しかし、ファングたちが勢いよく馬車に突っ込もうとしていた所を見ていたため、ソータが倒した魔物たちが死にかけではないことは明らかだった。


「お、落ち着け。たかがファングだろ。下級パーティでも倒せない魔物じゃない」


「……ファングを五体をまとめて倒すような下級パーティはいないだろ」


 ケインは笑って誤魔化そうとバースをじろっとバースを見る。


 バースが気まずそうに視線を逸らすが、ケインとモモは言葉を続ける。


「このままあのクソガキに大きな顔をさせ続けるわけじゃないよな?」


「そんなことになったら、オリバさんに顔向けできないんだけど。ねぇ……あの笛、ちゃんとまともな魔物呼べるんでしょうね?」


 ケインとモモが気にしているのは、『魔物呼びの笛』で読んだ魔物がソータたちに簡単に負けるのではないかということだった。


 そうなってしまうと、バースたちの面目は丸つぶれになる。


 そんなことを知ったオリバに見放されるかもしれないと考えていた。


 当然、すでに捕まっているオリバに対する顔向けなど考える必要などはないのだが、バースたちはそのことを知らない。


 自分たちが街で大きな顔をできなくなるのではないか。


 そんな心配だけをしていた。


 二人に詰められたバースは大きくため息を吐いてから、二人を睨む。


「ちっ、うるせーな。分かってるよ。俺だって考えてるっての」


 バースは胸の内ポケットに隠してある『魔物呼びの笛』をちょんちょんっと指さしてから、口元を緩める。


「絶望に突き落とすにはタイミングってものがある。あんなクソガキじゃどうしようもできない展開にしてやるから、ちゃんと信頼しろよ」


 バースはそう言うと、ズボンのポケットから一枚の紙を取り出す。


「これは、地図か?」


「ああ。目的地まではまだしばらく先だ。それまでの間に雑魚魔物の護衛で魔力やら、体力やら存分に減らしてもらうんだよ」


 バースが持つ地図は、ヘリス高原から街行きの馬車が出ている乗り換え地点までを示した簡易的な物だった。


 その地図の真ん中付近には、何もない所が雑に丸で囲われていた。


 バースはそこを指さして、ここが目的地だと言う。


 ケインとモモはその丸を見つめながら、眉を潜めて首を傾げる。


 得意げな笑みを浮かべるバースの計画は、ケインにモモにも知らされることなく実行されることになる。


ましてや、その目的地のことも知らないソータたちは、ただバースの考える計画に巻き込まれるしかなかったのだった。

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