第74話 対ファング戦


「魔物は、こっちから来るみたいだね」


 俺は『魔力探知』を確認しながら、魔物が近づいてくるのを待った。


 少し待っていると、魔物たちは徐々に目視で確認できる距離まで近づいてきて、その姿を俺の前に現した。


 すごい勢いで走ってくる四本足の魔物。その鼻付近には立派な角が生えている。


「ファングたちか。もしかして、馬車が縄張りにでも入ったのかな?」


 こちらに向かってきているのは、ファングというイノシシ型の魔物だった。


 縄張り意識が高く、縄張りに入った者を群れで襲う性質がある魔物。


 群れでなければ下級の冒険者パーティでも、倒すことができるので、そこまで構える相手ではない。


 ……あくまで、単体ならの話だけどね。


 ファングは今回のように群れで向かってこられると、少し面倒な相手なのだ。


 確認できるファングは全部で五体。


 小規模な群れだったことは救いかもしれない。


 俺はこちらに向かってくるファングたちを見ながら、こくんと頷く。


「拘束魔法で捕まるよりも、『火球』を打ち込んじゃったほうが早いよね」


 俺はそう呟きながら、片手を向かってくるファングたちに向ける。


 ファング相手なら、『火球』を重ね掛けしなくても問題はないだろう。


 でも、念のために少しだけ圧縮率を変えて『火球』の勢いを増しておこうか。


 そう考えているうちに、ファングとの距離は数十メートルになった。


 ……うん、十分に引き付けただろう。


俺はファングたちをじっと見ながら、魔法を唱える。


「『火球』、『火球』、『火球』、『火球』、『火球』」


 頭の中で『火球』の発射口を絞って、五つの『火球』を発射させると、いつよりも勢いの良い火球が飛んでいった。


 ゴウゥゥ!!


 そして、唸るような音を立てながら飛んでいった『火球』は、こちらに走ってくるファングたちにそれぞれ着弾した。


「「「「「ギヤッ!!」」」」」


 そして、ファングは体を跳ねさせた後、走ってきた勢いをそのままに、地面に体を強くぶつけて動かなくなった。


 『火球』が当たった場所は濃く焦げており、ぷすぷすと煙が上がっている。


「魔法の発射口を絞ると、結構与えるダメージも変わるんだな」


 俺はピクリとも動かなくなったファングをじっと見てそんな言葉を漏らす。


 他に魔物は向かってきていないみたいだし、素材を回収して馬車に戻るかな。


 そう考えながら不意に顔を上げると、馬車から俺のことを除いていたバースたちと目が合った。


「素材を回収したら戻るので、少し待っていてください」


「っ! は、早くしろよ!」


 バースたちはそう言うと、バッと俺から目を逸らしてしまった。


 何か慌てているように見えたのは、気のせいだろうか?


 俺はそう考えながら、馬車に置いていかれてしまわないように、急いで素材の回収をするのだった。

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