第73話 二手に分かれての護衛


 不敵なバースの笑みを見せられて気を引き締めた俺だったが、不思議とその後に何かをしてくることはなかった。


 どうやら、バースたちよりも先に魔物が動き出したらしい。


「ソータ、魔物が来てるぞ」


「うん。そうみたいだね」


『魔力探知』に反応があって、俺とケルは顔を見合わせて頷く。


 バースたちは何もしないと言っていたし、この魔物は俺たちで対応するしかないだろう。


 ……確かにバースたちは何もしないほうが俺たちも動きやすい。


 でも、護衛の依頼を引き受けておいて、全部俺たち任せというのはどうなんだろう。


 俺はくつろいでいるバースたちを見ながら、隣に座るサラさんに耳打ちをする。


「サラさん、魔物がこっちに向かってます。サラさんとケルはこの馬車の中に残っていて欲しいんですけど、いいですか?」


「構わないけど、どうしてだい?」


 サラさんは首を傾げて不思議そうな顔をする。


 俺は膝の上にいるケルの頭を軽く撫でながら、言葉を続ける。


「バースたちが何もしないとは思えないので、サラさんとケルにはバースが乗客たちに何かしたとき、バースたちから乗客たちを守って欲しいんです」


「なるほどね。魔物とバースたち、それぞれの護衛が必要ってわけだ」


 サラさんは呆れるような笑みを浮かべてから、こくんと頷く。


「そういうとなら了解だよ」


「我も了解した。何かあればすぐにソータのもとにも向かおう」


 サラさんとケルの返答にこくんと頷いてから、俺は席を立つ。


「ん? なんだクソガキ。便所にでも行きたくなったか?」


「いや、魔物を倒してくるんで、馬車を止めてください」


「魔物?」


 バースは怪訝な顔をしてから、ケインに顔を向けた。


 ケインはバースに見られて仕方ないしと言った様子で、辺りをキョロキョロと見渡す。


 ケインは弓使いなだけあって、遠くを見る弓使い特有の魔法に長けているのだろう。


「ああ、確かに遠くの方にいるみたいだな」


 ケインが気だるそうにそう言うと、バースは必要以上に驚いた様子で笑う。


「よく気づいたじゃねーか、クソガキ。弱い奴はいつも脅えて生きているから、魔物の感知も早いのかもな」


 バースの言葉に合わせるように、バースの周りにいた護衛たちは俺を馬鹿にするように笑いだした。


 ……いやいや、魔物が近づいてきているんだから、笑っている場合じゃないでしょう。


「あの、馬車を止めてもらっていいですか?」


 俺がもう一度そう言うと、バースはあからさまに機嫌を悪くしたような表情で俺を睨む。


「ちっ、ノリ悪いな。おい、御者! 止まれ!!」


 バースが声を荒らげると、馬車は急停止した。


 思わず体がよろけそうになると、その背中をバースがバンっと強く叩く。


 俺が数歩踏み出すようにして立ち止まって振り返ると、バースがへらへらとした笑みを浮かべていた。


「今回は前みたいに魔物が死にかけじゃねーだろうから、気を付けろよ~」


 バースがそう言うと、バースたちはゲラゲラと品のない笑い声を上げていた。


 死にかけの魔物?


 一体何のことを言っているのだろう?


 俺はバースの言葉に首を傾げながら、馬車から降りてこちらに向かってくる魔物たちを待つことにした。

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