第71話 任命。護衛役
数日間の修業を終えて馬車の停留所に向かうと、そこにはすでに俺の到着を待っていた馬車の乗客たちがいた。
「ソータたちさんだ!」
その乗客たちは、俺がただ停留所に到着しただけなのに歓喜の声を上げている。
俺も同じ乗客なのに、凄いお迎えだ。
俺に気づいた乗客たちはそのまま俺達の方に押し寄せてくる。
「ソータさん! 来てくださって助かります!」
「こちらこそ数日間待ってもらってすみません」
俺が乗客たちの圧に押されていると、乗客たちをかき分けて以前にバースに絡まれていたお爺さんが俺の手を握って深く頭を下げてきた。
どうやら、以前バースたちから助けたことを今でも感謝してくれているみたいだ。
大したことでもないんだけどね。
そんなことを考えていると、同じくバースに絡まれていた冒険者がひょこっと現れた。
「修行に来たのに私たちに合わせてくれたんですよね? 本当に助かりましたよ、ソータさんが合わせてくれて」
冒険者の男に図星を突かれてしまい、俺は頬を掻く。
すると、そんな冒険者の言葉を皮切りに、わっとバースたちに対する不満の声が広がった。
「バースたちが何をしてくるのか分からないし、ソータさんなしじゃ乗れないよな」
「宿に押し寄せてくるかヒヤヒヤでしたよ」
「全くだ、魔物よりもタチが悪いぞ」
……おかしいな。確か、バースたちがこの馬車の護衛のはずなんだけど、魔物以下と言われてれてしまっている。
そう思いながら、数日前のバースたちの態度を思い出すと、バースたちを信頼する人はいないだろうと納得する。
「ソータさんたちには護衛代をお支払いさせてください。その、バースたちから私たちを守っていただく護衛代として」
俺が乗客たちの言葉を聞いていると、一人の女性がそんなことを言ってきた。
その声に合わせるように頷く乗客たちの反応を見るに、どうやら俺がいない所でそんな話し合いを行っていたことが察せられた。
俺は焦るように手と首を横に振る。
「護衛代なんていただけませんって! そんなの頂かなくても、可能な限りの護衛はしますから」
何からの護衛なのかあえてぼかして言うと、乗客たちはわぁっと湧いた。
あんまり騒いでいると、バースたちにこの声が聞かれそうで少し怖い所でもある。
「おーおー、皆さんお揃いで」
すると、俺たちの声を聞いてきたのか、本来の馬車の護衛を任されているバースたちが腕を組んで俺たちの前に現れた。
……なんというか、現れ方が完全に悪役だ。
「おお、久しぶりの愚かな人間たちではないか」
ケルはそんなバースたちを見て、感動するように声を漏らしていた。
ケルが声のボリュームを落してくれたおかげか、バースたちにはケルの声は聞こえていなかったようだ。
バースは得意げな笑みを浮かべている。
「それじゃあ、馬車まで案内してやるよ。なに、俺たちは手を出したりしないから安心しな」
バースはそう言うと、ニヤッと不敵な笑み浮かべながら俺を見る。
「クソガキのパーティに護衛は任せようじゃないか。それでいいだろ?」
あれ? 任せてくれるの?
そんな簡単に護衛を任せてくれるとは思わなかった……何か途中で妨害をしてきたりする気だろうか?
バースの少し肩透かし気味の言葉を前に、俺は怪しみながら他の乗客たちと一緒に馬車に乗り込むのだった。
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