第70話 固定観念
「よーし、よしよしっ」
俺はそのままケルビンの捕獲作業を続けていた。
逃げたケルビンを捕まえて、捕まえたケルビンをケルに渡すということを何度も繰り返していた。
そして、今はケルが俺のもとに来るまで『黒影鞭』で捕まえたケルビンを落ち着かせるために撫でていた。
……うん、何度もこの作業をしているせいかケルビンを落ち着かせるのにも慣れてきた気がする。
ケルビンに頬釣りまでされてしまって、小さく笑っていた。
「ソータよ、もう次のケルビンを捕まえたのか」
「うん。止まっている魔物相手なら、高確率で拘束することができるようになったよ」
ケルビンかけてある縄をケルに渡すと、ケルはそこを加えて可愛らしく尻尾をフリフリとさせる。
「その言い方だと、動いている相手を拘束するのは苦戦しているのか?」
「うん。初めから構えられたりすると、逃げられたりもしちゃうみたい」
ケルビンの捕獲を行う中で、あまりにもケルビンの警戒心がなかったので、どこまで近づけるか試したことがあった。
しかし、すぐに気づかれて逃げられそうになり、俺は慌てて『黒影鞭』を使った。
それだというのに、ケルビンは一瞬驚いた後、華麗に『黒影鞭』を避けてそのまま茂みの方に逃げていってしまった。
あれ? もしかして、不意を突かないと逃げられちゃうのか?
そう思った俺は、あえて俺の接近を知らせてから『黒影鞭』を使ってみたりした。
すると、俺の接近に気づいたケルビンは『黒影鞭』を避ける個体も一定数いることが分かった。
圧縮率を変えることで相手を拘束する『黒影鞭』の勢いは増したのだが、まだ改善の余地があるのかもしれない。
「ケルだったら、さっきの勢いがある『黒影鞭』をどうやって避ける?」
見方を変えれば何かに気づくかもしれない。そう思って聞いてみると、ケルは首をこてんと傾げる。
「一手目を全力でかわして、後はそのまま走り去るだろうな」
「一手目をかわして?」
俺がケルの言葉を繰り返すと、ケルはふむと言ってから続ける。
「ソータの今の魔法は四つの鞭があるのに、一斉にまとめて拘束してくるだろう? だから、そこだけ集中すれば、かわせんこともない」
「あ、そういうことか」
勝手に『黒影鞭』は四ついっぺんに動くものだと思っていた。
今まで拘束魔法なんて使ったことがなかったから分からなかったけど、もしかしたら、それぞれ別々で動かすこともできるのかもしれない。
いや、もっと言えば最初の一本目だけ他よりも速さを上げて対象を捉えてから、他の三本で押さえこめば……。
「そっか。まさか、そんな方法があったとはね」
「何かに気づいたようだな、ソータよ」
ケルは俺の様子を見て何かを察したのか、ヘッヘッヘッと子犬のような息遣いをしながらニパッと笑う。
「うん。ケルのおかげでケルも捕まえられるくらいの拘束魔法が習得できるかもしれない」
「フフッ、我を拘束できるほどの魔法か。言うではないか、ソータよ」
ケルは『我は手強いぞ』と言い残して、スキップのような軽やかな小走りでケルビンを男のもとに届けにいった。
「さて、ケルを驚かせるためにも頑張んないとね」
俺はそう言いながら、再びケルビンの捕獲に戻るのだった。
それから、俺は翌日もケルビンの捕獲をしながらの修業を行った。
その結果、逃げ出したケルビンをみんな捕まえることができるくらい、拘束魔法を上手く使えるようになったのだった。
そして、さらに翌日。
ついに、俺は街に戻るための馬車に乗り込むことになる。
そして、それは会いたくもないバースたちとの再会を意味するのだった。
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