第69話 正しい使い方
「よかった、まだ遠くまで逃げていなかったね」
「ふむ……少し、警戒心がなさすぎる気もするがな」
俺とケルは先程逃がしてしまったケルビンの跡を追っていた。
ケルビンの脚で逃げられたら面倒だと思って急いだのだが、案外近くの茂みで休んでいた。
うん、ケルの言う通り家畜と言っても警戒心がなさすぎる気がする。
そう考えながら、俺はさっそく『黒影鞭』の準備をする。
やり方はさっきと途中までは同じ感じだ。
地面に両方の手のひらを置いて、魔法の発射位置を移動させてケルビンの足元で固定。
あとは、さっきとは違って魔法の発射口を絞るイメージで、魔法が勢いよく飛び出すようにする。
以前のようなもやっとした感じではなく、しなる鞭のような物で捕獲するイメージ。
「……よっし、いける」
俺は顔を上げて優雅にくつろぐケルビンを見て、魔法を唱える。
「『黒影鞭』!」
すると、地面から凄い勢いで『黒影鞭』が伸びていき、その勢いのままケルビンに巻き付いた。
「ピ、ピィィ!!」
さっきは『黒影鞭』を発動したときに逃げられてしまったのに対して、今回は『黒影鞭』に巻き付かれた後に拘束されたことに気づいたように見えた。
先程とは比べ物にならないくらいの拘束の速度だ。
これは、確かに拘束魔法と言われるだけのことはある。
俺は上手くケルビンを捕らえることができたことに安堵して、額にかいていた汗を拭う。
「とりあえず、一体目確保だね」
「これはお見事としか言いようがないな、ソータ」
俺はニパッと笑うケルに笑みを返して、捕らえたばかりのケルビンに近づく。
「ピ、ピィィ!」
「おっと、驚かせ過ぎたかもね。ごめんね」
俺はそう言うと、男たちに渡されていた布を使ってケルビンの目元を隠す。そのあとに、きつくなり過ぎないように男から預かっていた縄をかけた。
家畜のケルビンは基本的に大人しいので、縄をかけられて目を隠して落ち着かせれば、縄を引く者についてくるらしい。
「ピ、ピィ……」
うん、気持ち少し落ち着きを取り戻したような気がする。
俺はそこまでしてあげてから、ワシャワシャッとケルビンの体を撫でたり、預かっていたおやつをあげたりしてケルビンを落ち着かせることに勤めた。
落ち着いたところで、『黒影鞭』を解いてみると、ケルビンはグッと伸びをしてからノソッとその場に寝そべってしまった。
……少し気を許し過ぎじゃないか、このケルビン。
「これだけ落ち着いていれば問題はないか。ケル、ケルビンを男の人の所に届けられる?」
「任せてくれ。すぐに送り届けてこよう」
「届け終わったら、また俺の所に来てね。俺は残りのケルビンを捕まえているからさ」
ケルは俺の言葉にこくんと頷く。
それから、ケルは俺に渡された縄を咥えると、尻尾をフリフリとさせながら俺たちにケルビンの捕獲を頼んだ男のもとにケルビンを連れていってくれた。
「じゃあ、残りのケルビンも捕まえてきますか」
魔法の圧縮率を変えながら『黒影鞭』を色々と試してみよう。
そんなことを考えながら、俺は逃げだしたケルビンの捕獲に向かうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます