第65話 疲労感と新しい魔法


「さすがに、少し疲れましたね」


 日が暮れるまで修行をした俺たちは、宿にある食事処で夕食を食べながら少し休んでいた。


 魔法の圧縮率を調整できる術を知った俺は、しばらくの時間を魔法の圧縮率の調整の修業に時間を使っていた。


 その際、魔法の発射位置の移動の修業を一緒にすれば、二つの修業をまとめてできるのではと思って、調子に乗って魔法を使いすぎたらしい。


 魔力を使いすぎたせいか、今は少し体がだるい気がする。


 俺が椅子の背もたれに体を預けていると、サラさんは呆れるような笑みを浮かべる。


「あれだけ魔法を使っていればそうなるさ。むしろ、あれだ気魔法を使って倒れないことに驚きだよ」


 サラさんの言葉を聞いて、ご飯を食べ終えたケルが顔を上げる。


「ソータは魔力も膨大だからな。普通の魔術師ならこうはいかないぞ」


 ケルはそういうと、ぐぐっと伸びをしてからふぁっと欠伸をする。


 どうやら、修行に付き合ってくれたケルも結構疲れているみたいだ。


 でも、ケルの表情はただ疲れているだけではなく、どこか達成感があるような顔をしているようにも思えた。


「ケルのおかげで感覚が掴めてきたよ。ありがとうね」


「ふふんっ、気にすることはない。ソータのためだからな」


 ケルはそう言いながらも、お礼を言われたことが嬉しかったのか、尻尾をふりふりと振っている。


 軽く頭を撫でてあげると、ケルの方から俺の手に頭をスリスリとさせてきた。


 サラさんは俺がケルの頭を撫でているところを見て優しく笑ってから、視線を俺に移す。


「ソータは明日も今日みたいな魔法の修業をするのかい?」


「それもいいんですけど、新しい魔法の習得もしたいんですよね」


 俺は食べ終えた食器を少しどかして、魔導書をパラパラとめくった後に机の上に置いた。


 サラさんにも見えるように置くと、サラさんは髪を耳にかけてから覗き込む。


「これは、何の魔法なんだい?」


「拘束魔法の一種ですね。相手の動きを封じることができるみたいです」


 俺の古代魔法は重ね掛けしたときに発動まで少し時間がかかる。


 徐々に使っていくうちに速くはなっていっているのだが、まだまだ改善点があるのも事実。


 それまでの間、相手を押さえ込む方法はないかと考えて魔導書をパラパラとめくっていると、ちょうど良い魔法を見つけたのだ。


「今はまだケルとかサラさんがいるからいいですけど、一人で強い魔物を相手にするときに相手を足止めしておく術が欲しいんです」


「拘束魔法か。確かに、それが使えれば今後の戦いが楽になるかもね」


 サラさんは俺の言葉にふむと頷く。


 ただ問題あるとすれば、その魔法の習得に日数をあまり割けないということだ。


 数日でモノにするためには、より実践的な方法で試すのが一番いいんだろうけど、ケルに拘束魔法の練習相手になってもらうのは少し気が引ける。


 ケルなら喜んで引き受けてくれそうだけど、かける側からしたら使い魔に拘束魔法をするのは抵抗がある。


「ええ⁉ ケルビンが逃げた⁉」


 そんなことを考えていると、他のテーブルから大きな声が聞こえてきた。


 振り向くと、すぐ後ろの席で二人の男が深刻な顔をして悩んでいる様子。


 俺は彼らのことが気になって、少しだけ会話を少しだけ盗み聞きことにしたのだった。

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