第60話 護衛の護衛


「あの、ソータさんたちはいつ頃街に戻られますか? できれば、私たちも同じタイミング帰りたいなと思うのですが」


 バースたちのいる停車場から少し離れて、乗り合わせた乗客たちの乗客たちと話をしていると、バースに初めにチップを持ってくるようにと言われたお爺さんがそう言った。


「確かに、バースたちが何をしてくるのか分かりませんもんね」


 バースの捨て台詞のような言葉を忘れている乗客はいないだろう。


 あの時のバースの反応から察するに、帰りの馬車の中で俺たちに何かをしてくるのは確実だろう。


 バースをキレさせてしまった原因は俺にもあると思うし、できることなら乗り合わせた馬車の乗客たちを守ってあげたい。


 ……まぁ、実際はバースが馬鹿なことをして、ただ逆ギレしてるだけなんだけどね。


「ソータさんたちは、なぜヘリス高原に来られたんですか?」


「魔法の修業をしたくて来たんです。といっても、数日間くらいの予定なので、帰りの馬車を合わせることはできると思います」


 俺の言葉を聞いて、乗客たちの顔がパァッと明るくなった。


 おかしいな。バースたちは本来護衛のはずなのに、その護衛の護衛役がいないと馬車に安心して乗れないなんて。


「帰りの馬車でバースを乗せなければ、安心して帰れるのにね」


「そうなんですよね。でも、御者と繋がりがあると言われてしまうと、バースたちを乗せないと馬車も動かないですよね」


「うん、確かにそうなるかも」


 俺とサラさんはそう言って、呆れるようにため息を漏らす。


 バースたちを乗せないで、魔物から馬車を守るだけの方が絶対簡単だろうなと思ってしまうのも仕方がないことだと思う。


「それじゃあ、三日後にこの停車場に集合でどうですか? 時間は、朝一の馬車に間に合う時間ってことで」


 俺がそう提案すると、乗り合わせた乗客たちは頷いて、俺たちに感謝の言葉を述べながら去っていった。


 本当はもう少し長くヘリス高原にいてもいいんだけど、それだと他の乗客たちが先に帰っちゃうかもしれない。


 そこでバースに嫌がらせをさせられるかもしれないし、長居はできないよね。


 多分、三日くらいなら待っていてくれるでしょ。


「それじゃあ、俺たちも行きますか」


 俺はサラさんとケルにそう言ってから、歩き出す。


「フフフッ、修行の後に楽しみがあるというのは良いことだな、ソータ」


宿に着くまでの道中、ケルはやけに上機嫌そうに尻尾をフリフリとさせながら歩いていた。


 修行後の楽しみというのが何を指すのか。


 さすがにそれが分からない俺ではない。


 ……ケルが期待すればするほど、バースたちのハードルが上がっている気がする。


 俺はバースとケインの計画がどんなものなのかを想像しながら、スキップのような足取りで歩くケルの後ろ姿を見つめるのだった。

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