第59話 馬車の乗客たち


「案外普通に着いたね。何もされないのは、少し意外だったかも」


「ええ。……なんか凄い睨まれ続けている気もしますけど」


 ヘリス高原に向かう馬車で魔物たちに襲われて、バースたちの代わりに魔物たちを退治したり、ただ移動しただけなのに色んなことがあった。


 しかし、その後は何もされることなく、無事にヘリス高原にたどり着くことが着いた。


 バースたちの一件以降、道中で魔物に襲われることがなかったということもある。


しかし、馬車から降りるときにバースに殴られるくらいは覚悟していたのに、何もなかった。


一体どういうことだろうか?


 他の乗客たちの目があったから気にしたのか?


 いや、バースたちはそんなことを気にするタイプではないよね。


 むむっと考えてみたけれど、まるで答えが分らない。


 すると、サラさんがちらっと少しだけ振り返ってから、くすっと笑う。


「本当だ、凄い睨んでいるよ。ソータは振り返らない方がいいかもね」


「あんなことがあっても凹まず、さらに愚かなことをしようと考えているのかもしれん……二番煎じにしては期待させてくれるではないか」


 サラさんがちらっと見たのに対して、ケルはがっつり振り返って目をキラキラとさせてバースたちを見ている。


 どうやら、ケルは今度会った時にバースたちが何をしてくれるのかワクワクしているみたいだ。


 ……非常に心強いこと、この上ない。


「あの、冒険者の方!」


「え? お、俺ですか?」


 そんなことを考えながら、そそくさと馬車の停車場から離れようとしていたのだが、不意にそんな言葉をかけられた。


 俺が振り返ると、そこにいたのはバースたちが護衛している馬車に乗っている乗客たちだった。


 え? こんな大勢でどうしたのだろう?


 そんな多すぎる数に少し警戒をしていると、一番前にいた初めにバースに絡まれたお爺さんに手をガシッと掴まれた。


「助かったよ! 本当にありがとう!」


「え? あ、いえ、そんな大したことじゃないですってば」


「いやいや! 君たちがいなかったらあの馬鹿者が暴れたい放題だったわ!」


 お爺さんは俺の手を強く握って、心を込めながらそう言った。


 こんなに感謝されるとは思っていなかったので、俺は少したじろぐ。


 すると、バースに絡まれていた冒険者がすすっと俺に近づいてきた。


「あのバースって冒険者、オリバさんとかと一緒にいた人ですよね? ……なんで、オリバさんが捕まったのに、まだあんな大きな顔をしているんですか?」


「話を聞いたらしばらく街に帰っていないらしくて、オリバが捕まったことを知らないみたいです」


「あ、なるほど。それでですか。別で悪い奴らと繋がりでもあるのかと思ってました」


 俺の言葉を聞いて、数人の冒険者が納得したような声を漏らす。


なるほど、オリバが捕まったという状況なのに、他の冒険者たちがあまり反抗しなかったのは、そういうことを気にしていたのか。


 確かに、オリバが捕まったのにあんなに大きな顔をしていたら、他にも繋がりがあるともと思うかもしれない。


 つまり、後ろ盾がいなくなった今のバースはほぼ詰んだような状態という訳か。


 俺は未だにそんなことにも気づかず、俺たちを睨み続けるバースたちを見て、呆れるようにため息を漏らした。

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