第56話 ハイリザードとの戦い


 ケルが飛び出した勢いのまま軽くハイリザードの脚にコーンッと頭突きをして、ハイリザードとの戦いが始まった。


「ギヤアアアァ!!」


 ……開始早々ハイリザードが凄い叫び声を上げているのが気になるな。


 俺はそんな気持ちを抑えつつ、両手をハイリザードに向けて『火球』を三つ重ねるイメージを強める。


 徐々に使い慣れていくうちに、『火球』を重ねて発動するイメージをするのも早くなってきた。


 よっし、後は『火球』を発動するだけだ。


 そう思ってケルを見ると、ケルはキャッキャッと楽しそうにハイリザードにじゃれている。


 ん? じゃれている?


「ギャアア!!」


 いや、勘違いか?


ケルはハイリザードと戯れているようにみえるが、きちんと脚で蹴ったり、頭突きなどをして着実にダメージを与えていた。


 ……でも、その姿が加減を知らない子犬がじゃれてるようにしか見えない。


 なんだか楽しそうだなと思って見ていると、ケルが少し屈んでから強めの頭突きをハイリザードに当てた。


 すると、ハイリザードは脳震盪でも起きたかのように、クラクラッと揺れていた。


 攻撃をするなら今しかない。


「『火球』!」


そう思った俺はケルに目配せをしてから、『火球』を唱える。


すると、俺の手のひらに顔ほどの大きさの三つの炎の玉が現れた。


 三角形を描くような構図で現れた炎の玉は、回りながら徐々にその中心に熱を溜めていく。


 そして、ぐるぐると回っている炎はいつもよりも早く萎んでいき、完全に萎んだ瞬間に中央にあった熱が一気に火を噴いた。


 その炎は一直線にハイリザードに飛んでいき、ハイリザードを貫く。


「ギヤアアアァァァ!!!」


 そして、俺の『火球』で焼かれたハイリザードは、そのまま動かなくなった。


「……今回は私の出番はなかったね」


「ケルの足止めが完璧過ぎましたからね」


 ケルがぎゅむっと前足でハイリザードを踏んで、ニパッとした笑みを浮かべているのを見て、俺とサラさんは軽く笑っていた。


 ケルが随分と手を抜いていたように見えたのは、多分俺が足止めをしてくれと頼んだからだろう。


 頼み方が違っていたら、ケル一人でもハイリザードを倒せていそうだ。


 ケルの強さは未知数だけど、俺もケルに負けないくらい強くならないと。


 そんなことを考えながら振り向いてみると、そこには俺たちの戦いを窓から見ていた乗客たちがいた。


 そして、その中には驚きすぎて声も上げられなくなっているバースたちの姿もある。


「ソータ、見てみろ! オリバの二番煎じがアホ面をしているぞ!」


 ケルがパァッと明るい笑みを浮かべながら駆け寄ってきたので、俺は慌てるようにケルの口を塞いだ。


 うん、その気持ちは凄い分かるんだけど、バースって怒ると面倒なんだよ。


 ちらっとバースたちを見ると、どうやらケルが喋ったこと以上に俺たちがハイリザードを倒したことが信じられないのか、バースはしばらく呆けてしまっていたようだった。

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