第53話 バースのやり方


「おらおら、早く金持って来いよ。早くしないと、おまえら全員死ぬことになるぞ」


 バースはそう言うと、ドカッと荒々しく足を広げて腰を下ろす。


 その姿は護衛のための冒険者というよりも、身ぐるみを剥ごうとしている盗賊に近かった。


 さっきまで安心していた乗客たちは、そんなバースの言動を前にして、またざわつき始める。


 そんな中、ニヤニヤと笑みを浮かべるバースたちを見て、乗客のお爺さんが立ち上がった。


「冗談じゃない! 君たちはこの馬車の護衛として冒険者ギルドからすでにお金を貰っているはずだ! 私たちが払う必要がどこにある!」


 乗客の声を代弁したような声に、他の乗客たちもそうだそうだと声を張る。


 そんな劣勢な状況だというのに、バースは顔色一つ変えずに溜息を漏らす。


「そうかい。不満があるなら、今ここで馬車から降りてもらっていいぜ」


「な⁉」


 しかし、バースのその一言を前に、お爺さんと共に不満を口にしていた乗客たちの声はピタリ止んだ。


 ……バースの奴、まさかとは思うけど護衛の度にこんなことをやっているんじゃないよね?


 随分と手慣れている気がして、俺はバースが常習犯である気がしてならなかった。


 俺がそんなことを考えているうちに、一人の冒険者がガタっと音を立てて立ち上がった。


「待ってください! さすがに横暴がすぎますよ。同じ冒険者としてあなたたちの行為を見過ごすわけにはいかない!」


 正義漢強い冒険者の男がそう言うと、その言葉を聞いたバースたちは噴き出すように笑いだす。


「同じ冒険者? 見ない顔だな……おまえらのパーティのランクはいくつだ?」


「E級ですけど、何か問題が?」


「ハハハッ! E級? E級とC級の俺たちが同じ冒険者なわけないだろうが! 笑わせんじゃねーよ」


 ゲラゲラッと笑いだすバースたちの態度に、若い冒険者は顔を赤くさせている。


 笑う所ではないし、冒険者には変わりはない。


 そのはずなのに、バースは若い冒険者を見下すようにみながら、ぐるっと他の乗客たちも見る。


「いいか、おまえら。この世界は弱肉強食だ。弱いやつが強者に逆らって生きていけるわけないだろ」


 バースはそう言ってから剣を引き抜くと、その剣をそのまま馬車の床に突き刺した。


「ここでの強者は俺たちだ。聞いて回ったが、C級以上のパーティはいないみたいだからな」


 なるほど。どうやら、バースたちが乗客の冒険者たちと話していたのは、自分たちよりも強い冒険者がいないかを確かめるためだったらしい。


 やけに仕事熱心だと思ったら、全部このためだったのか。


 俺は呆れるようにため息を漏らす。


「ソータよ。あの愚かな人間、我たちを忘れてないか?」


「多分、俺がいるから無視してるんだと思うよ。俺がいるパーティがC級以上のわけがないって、決めつけているんだと思う」


おそらく、オリバのパーティを追放された俺が、まともなパーティにいるわけがない。


 そう思って俺たちへの確認を怠ったのだろう。


 オリバのパーティが俺の支援魔法のおかげで強かったことも、オリバたちに勝負で俺たちが勝ったことも知らない。


 ケルの言葉に俺がそう答えると、ケルはそうかと言ってから、新しいおもちゃを見つけたように目をキラキラとさせていた。


 尻尾を振っている姿は、これからどうしてやろうかと色々考えてワクワクしているように見える。


 自分たちがこの馬車の中で最強だと息巻いているバースたちの姿は、俺たちにはあまりにも滑稽に映っていた。

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