第52話 やる気のある護衛


 バースたちパーティと他数組のパーティが護衛を勤める馬車に乗った俺たちは、何事もなくヘリア高原へと向かっていた。


 バースが意味ありげな言葉を言っていたので、何かあるだろうと思っていたのだが、馬車の中は先程まで乗っていた馬車と同じように穏やかだった。


バースたちなどろくに護衛の仕事なんてしないだろうとも思ったのだが、馬車の外だけでなく馬車の乗客の様子にも気を配っている様子。


 コソコソと仲間内で何かを話していたり、俺たち以外の馬車に乗っている冒険者たちに何かを聞いたりするのが気にはなるが、きちんと仕事はこなしているようだ。


というか、一体何を話しているのだろう?


「ソータ。魔物が来たぞ」


「うん、そうみたいだね」


 そんなことを考えていると、『魔力探知』に反応があった。


 ケルも気づいたようで、ぴくんと体を小さく跳ねさせてから窓の方を見る。


 いつになったらバースたちが動くのかと思って見ていると、それからしばらく経ってからバースの仲間の弓使いのケインが窓に乗り出してじっと遠くを見た。


「バース。多分だが、魔物が来たぞ」


 ケインの仲間が馬車の乗客たちを見ながらそう言うと、馬車の中がざわついた。


 馬車の中には冒険者以外の一般人も多くいるので、魔物に対する対抗手段なくて怯える人たちもいる。


「……よっし、ようやくか。馬車を止めるように御者に言ってこい」


 バースは仲間にそう言ってから、ぐっと伸びをして立ち上がる。

 ようやく?


 まるで魔物の襲撃を待っていたかのようなバースの言葉に俺は首を傾げる。


 普通なら、魔物からの襲撃なんてない方が楽なはずだ。


 バースは仕事がなくて手持ち無沙汰だとか、仕事をしないのにお金を貰うのが悪いとかを考えるキャラではない。


 一体、どういうことだろうと思って首を傾げている、バースは大きく何度かパンパンッと手を叩いた。


「はーい、注目!!」


 バースは似合わない笑みと共に大きな声でそう言って、言葉を続ける。


「この馬車には、護衛のC級パーティがいるので安心してください! 馬車を襲ってくる魔物なんて、すぐに片付けることができる優秀な冒険者たちがいるので!」


 バースの声は良く馬車に響き、すぐに馬車にあった不安の声はなくなった。


 あれ? バースたちが本当に普通に護衛をするだけ?


 俺が眉を潜めてそう考えていると、バースは唐突にニヤッと口元を緩める。


「ただ魔物を倒す力があるのと、今襲ってくる魔物を俺たちが倒すかどうかは別の話だ


 バースは取り繕っていたような声色をやめて、盗賊のように脅すような口調で続ける。


「チップの額によって、この馬車を守るか決める。おまえら、俺たちに守られたいなら先払いでチップを貰おうか」


 バースたちはそう言うと、乗客たちを見ながらニヤニヤした笑みを浮かべる。


 ……やっぱり、バースがまともに護衛なんかするわけがないか。


 俺はすでにチップを貰った後のような顔をしているバースたちを見て、大きなため息を漏らすのだった。

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