第31話 ダンジョンのボス


「ここがボスのいる部屋……」


 オリバたちと何度かダンジョンに入った経験から、この扉の先にボスがいることは安易に想像がついた。


 ようやく、ダンジョンのボスと対面できそうだ。


「準備はいいですか?」


 俺はそっと扉に手をかけながら振り向く。


「もちろんだ。ソータの支援魔法のおかげでいつでも準備万端だ」


 サラさんはそう言うと、きゅっと片手で小さくガッツポーズを作った。


 ここに来るまでの間にかなりの数の魔物を倒してきたせいか、サラさんは自信に満ちた笑みを浮かべている。


「ソータよ、我もいつでもいいぞ」


 俺の隣にいたケルは俺の脚に自分の前足をかけながら、俺を見つめて尻尾を振っていた。


 ボスを前にしてもいつもと変わらないケルの様子に、俺は少しだけ笑ってしまう。


 ……本当に、頼れる仲間たちだ。


「それじゃあ、行きますよ」


 ダンジョンのボスと戦う前に、こんなに落ち着いていることなんてあっただろうか?


 そんなことを考えながら、俺は大きな扉を押し開けた。


 少し押すと簡単に開いた扉は、重々しいギィッという音を立てた。


 真っ暗な部屋の中を俺たちが数歩歩くと、突然後ろにあった扉が勢いよく閉まった。


 ……どうやら、俺たちを逃がしてくれる気はないらしい。


 扉が閉まって数秒後、俺たちを出向かえてくれるかのように壁際にある灯篭に順々に灯りがついた。


 そして、部屋が明るくなると、部屋の中央にいた魔物が俺たちのことをギョロっとした目で見ていたことに気がつく。


 緑色の翼と長い首、爬虫類を彷彿とさせる鱗に、地面に食い込みそうな鋭い爪。


「ギィヤアア!!」


 その魔物は威嚇のような咆哮をすると、俺たちを強く睨んだ。


「ほう、ワイバーンか。悪くない相手だな」


 ケルの言葉を聞いて、サラさんは剣を引き抜いて切っ先をワイバーンの方に向ける。


 ワイバーンは中型の魔物の代表のような存在だ。


 群れでいることもあるが、今回は一体だけ。


 何度も見たことはあったけど、俺自身はワイバーンと戦ったことがない。


 油断してやられるなんてことがないように、注意しないと。


「まずは様子見ですね。……『火球』!」


 俺は覚えたばかりの二重に重ねる『火球』を使って、直線状の炎を作り出してワイバーンに攻撃した。


 しかし、ワイバーンは俊敏な動きで翼を羽ばたかせると、俺の『火球』をひょいっと交わした。


「よ、避けられた⁉」


「初見でソータの魔法をかわすか。少しは骨がある奴なのかもしれんな」


 ケルはそう言うと、フフっと余裕のある笑みを浮かべて俺を見た。


「ソータ、俺たちに命令してくれ。共に戦うぞ」


 ケルにそう言われて、俺は一人で戦っているわけではなかったことを思い出した。


 そうだ、俺たちはパーティなのだから一人で倒しきる必要なんかないんだ。


 サラさんを見ると、サラさんもこくんと頷いて俺の指示を待ってくれている。


 俺は頭を切り替えて、三人で協力してワイバーンを倒す作戦を考えることにした。


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