第32話 試したいこと


「……試してみたいことがあります。二人とも力を貸してくれますか?」


 いくつかパターンを考えてみたが、多分ワイバーンを倒すのは難しくはない。


 純剣士のサラさんとケルがいる時点で、負けることはないだろう。


 そうなったとき、ただワイバーンを倒すだけではもったいない気がした。


 俺の魔法がワイバーンのような中型の魔物相手にどこまで通用するのか、それを確かめてみたくなった。


「もちろんさ。何でも言ってくれて構わないよ」


「当たり前だ。さぁ、我らは何をすればいい?」


 二人に確認を取ると、二人とも快く俺の頼みを聞いてくれた。


 オリバのパーティにいたときは考えてもみなかったけど、パーティってこんなに頼ってもいいんだ。


 そんな安心感から、俺は自然と口元を緩める。


「『火球』をもう何重かに重ねて使ってみます。少し時間がかかると思うので、それまでの間ワイバーンの足止めをお願いします!」


「了解した」


「任せてもらおうか」


 二人が頷いて俺の前に立ってくれてから、俺は両手のひらを前に出して集中する。


 『火球』を二重で使うことができたのなら、同じ要領でやればあと数回かは重ねがけできるはず。


 そう思って、俺は普段の支援魔法と同じ回数である五回分の重ねてがけを試みることにした。


「っ! サラさん、危ないです!」


 陣形を組んでいる俺たちを見て、俺たちが何かをしてくると察しったのか、ワイバーンが凄い速度でサラさん目がけて飛んできて、鋭い爪で襲い掛かった。


「ああ、問題ないよ」


 俺が思わず声を出すと、サラさんはなんでもないようにそう言ってから、剣で鋭い爪からの攻撃を何度も弾いていた。


「『二の型、蓮華』!」


「ギィヤ!!」


 ワイバーンの攻撃を全て弾いてから、サラさんが強く剣を振るうと重いはずのワイバーンが部屋の奥の方まで吹っ飛ばされた。


 ゴトンッ。


 そして、サラさんの足元にはサラさんの剣技に耐えきれず割れたワイバーンの大きな爪が転がっていた。


 どうやら、サラさんは剣技だけでワイバーンの爪を切り落としたらしい。


「……す、すごい」


「そうかい? まぁ、ソータの支援魔法のおかげでもあるんだけどね」


 サラさんは涼しい顔でそう言うと、切っ先をワイバーンに向けたままフフっと笑った。


「ふむ、サラよ。しばらくの間ソータを頼んだぞ」


「ケル?」


 サラさんとワイバーンの戦いを近くで見ていたケルは、ちょこちょこっとワイバーンの方に小走りで向かった。


「足止めでいいのだな? あの邪魔な翼を少しばかり痛めつけてやろうではないか」


 ちらっと振り向いて俺を見ると、ケルはすぐに視線をワイバーンに戻した。


「少しだけ、我の本気をみせてくれよう」


 声のトーンを落としてそう言うと、ケルは可愛らしい見た目に反して禍々しい魔力を漂わせ始めた。


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