第29話 古代魔法の重ねがけ


「ギ、ギィッ……」


 俺がハイゴブリンに手のひらを向けると、ハイゴブリンはたじろんでいた。


 さすがに、目の前で仲間が何体もやられた後に無鉄砲に向かってはこないみたいだ。


 こっちも初めての試みをするので、相手がすぐに襲ってこないのは好都合だ。


「えっと、支援魔法と同じようにだから……こんな感じか?」


 常に支援魔法は重ねがけしてきた。


 それと同じ要領でやるのなら、『火球』の熱源を二つ重ねる要領でやればできる気がする。


 そんなふうに頭の中のイメージを膨らませていくと、何かがかちりハマるような感覚があった。


 支援を重ねがけするときと非常に似ている。


「よっし、いくよ……『火球』!」


 俺が『火球』を唱えると、顔の大きさくらいの二つの炎が形成された。


 あれ? ただ二つできただけ?


 俺がそう考えていると、その二つの炎はクルクルッと回りだして、徐々にそれらの炎の玉が小さくなっていった。


 その代わりに、二つの炎の間に新たな炎の玉が作られていった。


 唸りながら大きくなっていく新たにできた炎は、初めにできた二つの炎が完全に萎んだ瞬間に、めらっと大きく揺れた。


 そして次の瞬間、その炎は火炎放射のように直線状に伸びていき、ハイゴブリンを吹っ飛ばした。


「ギィヤアア!!!」


 そして、吹っ飛ばされたハイゴブリンはそのまま動かなくなった。


 後に残ったのは、重ねがけした『火球』が通った後の少しの熱気だけ。


「今のが、『火球』?」


 俺は自分の右手を見ながら、眉を潜める。


『火球』というのは初級魔法で一般的な冒険者なら誰でも使える魔法だ。


それこそ、野営の時に火をつけるために覚える冒険者も多いだろう。


 そんな生活をするために必要な魔法……ではなかったよね、今のって。


「ソータ。今のは絶対に『火球』ではない気がするんだけどな」


 俺がしばらく何も言えずに困惑していると、サラさんが頬を掻きながらそう言った。


 ……なんかサラさん、少し引いてない?


「ふむ、黒焦げだな。あれだけの火力だ。おそらく、一瞬で臓器まで焼いたのだろうな」


 いつの間にかハイゴブリンの元に駆け寄っていたケルはそう言うと、こちらを見てニパッとした笑みを浮かべながら尻尾を振っていた。


 俺が攻撃魔法の重ねがけを成功させたことを喜んでくれているみたいだけど、俺はその威力を前に笑顔を引きつらせていた。


 魔法の重ねがけって、こんなに威力代わるの?


 明らかにオーバーキルしてしまったハイゴブリンを見ながら、俺はそんなことを考えるのだった。

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