第28話 威力アップの原理


 オリバたちを置いて順調にダンジョンを攻略していた俺たちは、襲ってくる魔物たちと何度目かの戦闘をしていた。


「いったぞ、ソータ!」


「はい! 『火球』!」


 サラさんがハイウルフを斬りつけながら言った言葉に返答して、俺はすぐに魔法を唱える。


すると、俺の手のひらから出た炎の玉がゴウッと唸ってゴブリンを捉えた。


「ウギャッ!!」


 ゴブリンは大きな悲鳴を上げてそのまま後方に吹っ飛び、そのまま動かくなくなった。


 普通、初級魔法一撃で倒れるほどゴブリンは弱くはない。


 それだというのに、一撃でゴブリンを倒すことができるというのは、俺が使っているのが古代魔法だからだろう。


 ……少しだけオーバーキルをしたくらい焦げた跡ができてるけど、一番弱い魔法でこの威力なんだから仕方がないよね。


「さすが、ソータだ。また一撃だったな」


「いえ、俺よりもサラさんの方が凄いですよ。こんな凄い動きをする剣士は初めて見ました」


「奇遇だね。私もこんな動きをしたのは初めてだよ」


 サラさんはそう言うと、冗談を言うようにフフっと笑う。


 そんな余裕そうなサラさんを見て、純剣士って本当は強いことを痛感した。


 サラさんにかけている支援魔法は、オリバたちにかけていたのと同じ支援魔法だ。


それなのに、サラさんの動きはまるでオリバたちとは違っていた。


 鮮やか過ぎる動きで魔物を斬っていく姿はとても絵になるものだった。


 サラさんの戦い方はオリバたちみたいな力でごり押す感じじゃなくて、剣技を見ているって気がする。


 ……まぁ、結局オリバたちが力でごり押していた力も、俺の支援魔法あってこそだったみたいだけどね。


 そう考えていると、サラさんはふいっと俺から視線を逸らす。


「それに、あんなに強い使い魔も初めて見たよ。……ケルベロスっていうのは、凄いんだね」


 サラさんの視線の先には、魔物を軽い突進で吹っ飛ばしたケルがいた。


 ケルはへッヘッと子犬のような息遣いをして、ダンジョンの壁に叩きつけて倒れた魔物を前足でぎゅむっと踏んでいる。


「我に勝てると思ったか? んん?」


 ……可愛らしい姿と言動が合ってないよな、ケルって。


ケルが魔物を叩きつけた壁の跡を見ると、叩きつけたときの衝撃のせいで少しひびが入っていた。


 やっぱり、ケルの攻撃って威力凄いんだな。


「……もう少し俺の魔法も威力が出ればなぁ」


 俺が右手を見つめながらボソッと呟いていると、ケルの可愛らしい足音が聞こえてきた。


 顔を上げると、ケルがちょこちょこっと俺のもとに駆けつけてくれていた。


「ソータは支援魔法の強さをどう調整しているんだ?」


「どうって、何重かに重ねがけして強さを決める感じかな?」


 俺が使えるのはあくまで基礎的な魔法ばかりだ。


 支援魔法を一回かけただけじゃ使い物にならないとオリバに言われてから、何重か重ねがけをして支援魔法の強さを調整するようにしている。


「攻撃魔法で同じようなことはできないのか?」


「攻撃魔法で?」


 思ってもいなかったケルの言葉に俺は首を傾げる。


 そもそも自分が魔物と戦ったことが少なかったから、そんなこと考えたこともなかった。


原理はいつも支援魔法を使っているときと同じでいいのか。


「……うん、できないことはないかも」


「それなら試してみるがいい。ほら、ちょうど良い実験体が来たぞ」


 ケルは俺の脚に前足をかけて尻尾を振っていた。


 顔を上げると、少し離れた所にハイゴブリンの姿があった。


 仲間たちが倒されている状況を前に、俺たちを襲うことを躊躇っているみたいだ。


「うん、試してみようか」


 俺はそう言うと、ハイゴブリンに向けて手のひらを向けた。


最悪失敗してもいい。物は試しだよね。


 ……でも、なんとなく上手くいく気がするんだよなぁ。


 そんなことを考えて、俺は初級魔法の『火球』を重ねてかける準備をするのだった。

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