第27話 亀裂


「ソータたち、行っちまったな」


ロードは遠くなったソータたちの背中を見つめながら、ぽつりとそんな言葉を呟いた。


今まで自分たちが強かったのはソータの支援魔法があったから。


その事実を身をもって知らされて、オリバたちはショックを隠せないでいた。


 今まで馬鹿にしていて追放までしたメンバーに助けられて、そのまま置いていかれた。


 しかし、プライドがズタズタに傷つけられた状態だが、ただ傷心しているわけにはいかなかった。


 ここはダンジョンの中。


 ぼうっとしていたらすぐに魔物たちに襲われる危険があることが分からないほど、ロードたちは馬鹿ではなかった。


「ちょっと、これからどうすんのよ! 私たちって、あいつの力ありきだったってことでしょ? これからどうすんのよ!」


 急に押し寄せてきた不安に耐えきれなくなったのか、リリスは頭を抱えながら叫んでいた。


 突然大声を出したリリスに驚きながら、ナナはロードと目を合わせる。


「早急にあの子をパーティに連れ戻した方が良いのでは?」


 ナナにそう言われて、ロードは躊躇いつつ頷いてからオリバを見る。


「そうだな。オリバ、今ならまだ間に合う。ソータを追いかけて、これまでのことを謝れば――」 


「……黙れ」


「オリバ?」


 ソータに事実を突きつけられたオリバは、ずっと俯いていた顔を上げてロードたちを睨む。


 その目は充血しており、正常な判断ができるような表情には見えなかった。


「あんなクソガキの支援魔法が俺らの力の正体だぁ? 信じれるわけないだろ! 俺たちはS級のパーティだぞ!!」


 オリバは肩で息をしながら、頭を掻きむしる。


「そもそもだ! あいつは俺たちに本当の力を隠したんだぞ!! 裏切りだ……あんな裏切り者に頭を下げろっていうのかよ!!」


 ソータをパーティから追放したのも、崖から突き落としたのもオリバたちだった。


 どちらが裏切り者なのかは明確だというのに、逆上したオリバを前にロードとナナはオリバと目を合わせようとしなかった。


「……あんたがそんなんだから、ソータが本当のことを言えなかったんじゃないの?」


 そんなふうに怒り狂っているオリバを見て、リリスは呆れるようにそう言ってから、ぐっとオリバを睨んだ。


 怒りだしたオリバは手が付けられない。


 それはロードもナナも知っていたので、思わぬリリスの反論に二人は顔を引きつらせていた。


「……なんだと?」


 オリバは反論されたことが気に食わなかったのか、大きな歯ぎしりの音を立てる。


 しかし、リリスはそんなオリバの態度を前にして、先程よりも強く睨んだ。


「オリバっていつもそうじゃん!! 少しでも気に障ることがあれば癇癪起こして扱いづらい!! ていうか、ソータを虐めてたのもほとんどあんたでしょ!!」


「はぁ? 今はそんなこと関係ないだろ! どう考えても悪いのはおまえらだろ!! 特にお前だ、リリス!! なんで魔術師のくせにソータの力に気づかなかったんだよ!」


 お互いにどちらが悪いかの擦り付け合い。


 オリバに指をさされながら捲し立てられて、リリスは一瞬怯む。


 しかし、反論をやめることはなかった。


「……っ! 分かるわけないでしょ! あいつ支援魔法も基本的なものしか使ってなかったじゃん!!」


 リリスがそう言うと、オリバは何かを言い返そうとしたところでピタッと止まる。


 激しい言い合いの中で、それはオリバも同じ事を考えていたからだ。


 そして、二人のやり取りを見ていたロードとナナも同じことを思っていたらしく、二人は順々にぽろっと呟く。


「そうだよな。あいつの魔法って上級魔法とかじゃなかったよな?」


「ええ。多分、そこは間違いないですよね」


 ロードの言葉にナナも自然と頷く。


 すると、そんなやり取りを見ていたオリバが鼻で笑った。


「あいつが基礎的な魔法しか使えないから、俺が何重にもかけろと命令しておいたんだよ。同じ初級魔法でも回数増やせば多少はマシになるだろうからな」


「「「……は?」」」


 オリバが自分の手柄のように言うと、オリバ以外の三人が信じられないような顔をした。


「な、なんだよ?」


「同系統の支援魔法って、重ねがけしても同じ効果しか発揮しませんよね?」


「は?」


 リリスが眉間に皺を入れながらそう言うと、オリバは間の抜けたような顔をした。


 そんなオリバを他の三人は常識知らずを見る目で見ていた。


「……ちっ、なんでそんな普通のことも分かんないのよ。あんたがソータの力見抜けなかっただけじゃないの」


「な、なんだその言いぐさは!! そもそもっ……!!」


 リリスが聞こえるようにそう言うと、オリバは耳まで真っ赤にさせて反論をしようとした。


しかし、パーティメンバー全員から馬鹿にするような目で見られて、オリバは言葉に詰まった。


その結果、オリバはただ歯をカタカタと震わせて怒りをぶつけることもできなくなってしまった。


 こうして、パーティの中でもオリバの株がさらに下がることになったのだった。



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