第16話 人員補充


「まぁ、これ以上オリバたちのことを話していても仕方がないか」


 ハンスさんはそう言うと、頭をガシガシッと掻いてから顔を上げた。


「しかし、ケルベロスの使い魔と古代魔法の使い手ともなると、C級ダンジョンなんて簡単かもしれないな」


 ハンスさんの言葉に頷いているケルの反応から察するに、本当にオリバたちに勝てるかもしれない。


 そんなことを本気で考えると、自然と膝の上に置いていた俺の手は拳を握っていた。


「でも、ソータくんって支援魔法を使うことが多いんですよね? だったら、支援魔法をかけられる仲間がいた方がいいかもしれませんよ?」


「……確かに、もう一人いたら心強くはありますね」


 エリさんの言葉を受けて、俺は小さく頷く。


 これまで魔物と戦ってこなかったので、圧倒的な経験不足であることは否定できない。


 実際に魔物と戦ったのは、オリバに崖から突き落とされてこの街に帰ってくるまでの道の間だけだ。


 俺よりも魔物を倒した経験のある仲間がいてくれたら、色々と助かるかもしれない。


「仲間にするならどんな奴がいいとかあるのか?」


 ハンスさんに聞かれて、俺は腕を組んで少し考える。


 多分、どんな職の奴がいいのかを聞いているのだろう。それでも、俺が今度の仲間に求めるものは一つだけかもしれない。


「できれば、今度は裏切ったりしない人がいいですね。……俺みたいな境遇の人って、他にいたりしませんかね?」


 パーティメンバーに追放されたり、裏切られたことのある人なら、その痛みを知っているから裏切らないかもしれない。


 そう思って聞いてみると、エリさんは思い出したように声を漏らした。


「あ、一人いますね」


「本当ですか?」


「ええ、最近C級パーティをやめることになった人が一人。その人剣士なんですけど、少し特殊な方でして」


「特殊な方?」


 俺は歯切れの悪いエリさんの言葉に首を傾げる。


 C級パーティにいたのなら、ある程度力の実力はあるはずだ。


 それなのに、なんでエリさんは言いづらそうにしているのだろ?


 そう思っていると、エリさんは俺の視線に耐えきれなくなったように口を開く。


「剣士は剣士でも、純剣士なんですよ」


「純剣士、ですか」


 純剣士というのは、肉体強化や剣士特有の魔法を全く使わない、剣一本で戦う剣士のことだ。


 当然、同じ実力なら魔法を使った方が強い。


 それが分かっているのに魔法を使わないのには、理由がある。


純剣士の大半は魔法を使わないのではなく、魔力が全くないから魔法が使えないのだ。


 昔は剣の道を究めた者として純剣士と言われていたらしいが、今は現代魔法が使えない剣士は『時代遅れの剣士』と言われて馬鹿にされているとか。


 古代魔法ほどではないが、今の時代は純剣士はほとんどいないとも言われている。


 多分、パーティを追放されたのもその人が純剣士だからだろう。


「……紹介してもらえませんか? その純剣士の人を」


「いいんですか?」


「はい。お願いします」


 力不足でパーティを追放させられる。そんな俺と似た境遇を聞いて、なんとなく親近感が湧いてしまった。


 気のせいかもしれないけど、その人となら上手くやれる気がする。


 そう思った俺は、さっそくその純剣士の人を紹介してもらうことにした。



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