第15話 ハンスの疑問


「ケルベロスって、あのケルベロスで合ってます? え、なんでケルベロスがこんなところに……ていうか、頭が三つあるんじゃないんですか?」


「フフフッ、いつか本気を見せるときがあれば、その姿の一端を見せよう」


 取り乱しているエリさんの反応を見て、ケルは可愛らしい肉球を見せるように右前足を上げながら誇らしげに体を逸らしている。


 その姿がただの可愛らしい子犬にしか見えないせいか、エリさんはさらに困惑しているようだった。


 本気になれば一端を見せるって、一体ケルが本気になったらどうなるのだろうか?


 そんなエリさんに対して、ハンスさんは口元を片手で覆って、何かをブツブツと呟いている。


「ハンスさん?」


「あ、いや、昔の伝承を思い出してな。古代魔法を扱えるものは、地獄の魔物も従魔にすることができるっていう話だ。まぁ、ただの空想上の話だろうけど」


 ハンスさんはそう言ってから、いや、まさかなと言いながら俺の顔をじっと見る。


 ……ケルの言っていたこと、本当なんだな。


 そんな俺たちのやり取りを見ていたケルは、上げている右前足をちょいちょいっと動かしてハンスさんの視線を自分に向けさせると、言葉を続ける。

 

「いや、合っているぞ。ソータが古代魔法で契約したから、我はソータの従魔になれたのだからな」


「「古代魔法⁉」」


 ケルが何でもないようことのように言うと、エリさんとハンスさんはソファーからガタっと音を立てて立ち上がった。


「ソータ、それは本当か⁉」


「えっと、確証はないんですけど、その可能性が高いかなと」


 ずいっと前のめりになっているハンスさんの勢いに負けそうになりながら、俺は頬を掻いて視線をふいっと逸らす。


 威力の高い攻撃魔法は使えるみたいだが、それが本当に古代魔法なのかと言われると確証を持てない。


 というか、ここでそんなふうに断言をしても、普通は絶滅したと言われている魔法が使えるなんて信じるはずがない。


 そんなふうに考えていたのに、ハンスさんから返ってきた言葉は意外な物だった。


「……なるほど。ようやく、腑に落ちたぞ」


「え? ハンスさん?」


「いや、長くギルド長をやっていたから、なんとなく分かるんだ。S級はS級の雰囲気があるものなんだ、普通はな。それがオリバたちにはなくて、ずっとおかしいとは思っていたんだがな」


 ハンスさんは俺を見ながら、なるほどなと納得して頷いている。


 いや、まだ古代魔法が使えるって確定したわけではないんだけど。


「ん? それなら、なんであいつらは、ソータを追放したんだ? 古代魔法が使える奴をパーティから追放なんてさせないだろ」


 ハンスさんは何かに気づいたような声を漏らしてから、首を傾げる。


 ハンスさんを見ていたケルは上げていた右前足を下ろして、ぐっと伸びをしながら口を開く。


「あの人間たちはソータの力に気づいていない。ソータの支援魔法がなくても、S級並みの力があると勘違いしているみたいだ」


「勘違いって、そんなことあるのか?」


 ハンスさんに怪訝な顔で見られて、俺は頬を掻きながら苦笑する。


「オリバたちは、それほどまで間抜けなのか……」


 俺の顔から察してくれたのか、ハンスさんは大きなため息を漏らすのだった。


 どうやら、今のでより一層オリバたちの評価が下がってしまったみたいだ。

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