第14話 作戦会議


「さて、念のために作戦会議をしておくか」


 オリバたちが冒険者ギルドを去ってから、俺とケルは冒険者ギルド奥にある個室にお邪魔していた。


 ソファーとテーブルしかない簡易的な部屋だが、少し話し合いをするにはちょうど良い大きさの部屋だった。


 ハンスさんの一言から、俺たちはここで簡易的な作戦会議をすることになった。


「仮にもオリバさんたちはS級ですからね。それなりに作戦を練った方がいいでしょうね」


 ハンスさんもエリさんも、まるで自分のことのようにむむっと真剣に考えてくれている。


 親身になってくれているのが嬉しい反面、どうしても気になってしまうことがあった。


「あの、どうしてこんなに良くしてくれるんですか?」


 冒険者ギルドはあくまで中立な立場だと思っていただけに、こんなに俺のことを心配してくれることが純粋に疑問に思った。


 すると、ハンスさんとエリさんは深い溜息を漏らしてから、順々に言葉を続ける。


「元々、オリバたちが気に入らないんだ。ソータみたいな子供に面倒ごとを押し付けているような奴らだからな。頑張っていたソータに対する扱いもなっていない」


「そうなんですよ。多分、うちのギルドでオリバさんたちの肩を持つ人はいませんよ。今まで表立って行動できませんでしたが、問題を起こした今なら遠慮せずにソータくんの肩を持てます」


 二人は互いの意見に同意するようにウンウンッと頷いていた。


 ハンスさんはニッと笑ってから、俺を見る。


「そもそも、S級のパーティが相手だからな。野暮にならない程度は手を貸すぞ」


 ……まさか、自分の頑張りを見てくれている人たちがいたなんて。


 どれだけ頑張っても、オリバたちにかけられる言葉は罵声ばかりだったので、そんなふうに自分を見てくれている人がいるなんて思いもしなかった。


「あ、ありがとうございます」


 俺は少しじんときた心を落ち着かせて、平常心を保つことを心掛ける。


 思わずポロッときそうになったけど、これから勝負だって時に泣くわけにはいかない。


 そう思って、俺は力強く顔を上げる。


 すると、そんなやり取りを見ていたケルが俺の手をペロッと舐めた。


「心配することはない。我がいれば全て解決だ」


 ケルはそう言うと、ソファーの上にちょこんと座った状態でふんすっと鼻息を吐いた。


 冗談を言っているみたいで場が和んだけど、ケルの言っていることは本当なんだよなぁ。


 俺は頼りがいのある可愛らしいケルの頭を撫でて、そんなことを考える。


 すると、俺たちのやり取りを見ていたハンスさんがじっと真剣な視線をこちらに向けていたことに気がついた。


「……ソータに確認しておくことがある。この魔物は一体、何者なんだ?」


 頭を撫でられて目を細めているケルを見て可愛いっと悶絶しているエリさんに対し、ハンスさんのケルを見る目には少しの緊張感さえある気がした。


「ハイウルフの子供、とかじゃないですか?」


「いや、そんな低俗な魔物ではないな」


 エリさんがケルの顎の下を撫でながらそう言うと、ハンスさんは大きく首を横に振る。


 ハンスさんの視線を感じ取ったのか、ケルは一通り撫でられてから自慢げに胸を張る。


「フフッ、恐れおののくがいい! 我はケルベロス! 地獄の門番なり!」


「「けるべろす?」」


 エリさんとハンスさんはケルの言葉を聞いて、ポカンとしてから俺を見る。


 俺が静かに頷くと、しばらくそのまま固まってから、視線をケルの方に戻した。


「ケルベロス⁉」


 驚く二人の反応を前に、ケルは得意げにふんすっと鼻息を漏らすのだった。

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